手塚治虫の幻のマンガを発見! 神保町「夢野書店」の店長さんに会ってきた
本の街! といえば神保町。世界一の古書店街とも言われるこの街は、本離れと言われている今の時代でも賑わいをみせます。
つい先日も、東京・神保町の旧岩波ブックセンター跡地に「神保町ブックセンター with Iwanami Books 」がオープンしたばかり。老舗有名カレー屋さんも多く集まり、グルメの街としても注目されています。
しかし古本屋さんのイメージといえば、狭ーい通路にうず高く積まれた本、謎めいた雰囲気に入店を迷ってしまうことも。
その独特な雰囲気が醍醐味でもあるのですが、初心者の方にとっては、安心して古本屋さんに入りたいという気持ちを持つ方もいるのではないでしょうか。
そこで今回は古本屋さんの謎を少し解いていこうと思います。
今回お話を伺ったのは、神保町駅から徒歩30秒、神田古書センターの2階に店舗を構える、夢野書店さん。「マンガ」、「雑誌」を主に扱う古本屋さんです。
店内には、うず高く積まれた本……ではなく、カラフルなグッズが飾られ、イメージしていた古本屋さんより、ずっと明るく楽しい雰囲気です!
『昭和の子どもが思い描いていた未来』を再現されたという店内は、隅々までレトロな世界観で満たされており、他では体験したことのない空間に感動しました。
昭和の子どもが思い描いていた未来を、再現しているという店内。少年時代に、マンガを通して夢をみた気持ちを大事にしていってほしいという西山さんの思いが込められています
神保町A6出口より徒歩30秒 A1出口より徒歩1分。神田古書センターの2階です。
夢野書店
古いマンガ本、雑誌を主に取り扱う。
神保町で1979年から営業をしていた中野書店が閉店するにあたり、マンガコーナーを担当する西山さんがお店を引き継ぎ、2015年に夢野書店を開店。
場所は神保町駅A6出口より徒歩30秒。神田古書センターの2階です。
「古本屋あるある」は本当? 夢野書店さんにきいてみた
今回は夢野書店の店長である西山さんに、「古本屋あるある」は本当なのか、お話を伺いました。
お客さんは常連さんが多い?
YES
── 昔からの常連さんによく来ていただいています。年齢は、団塊の世代の方とその前後の60代~70代が多いです。お客様は、私よりずっとキャリアが長く、色々なお店を回っていらっしゃるので、知識を教えてもらうことも多く、ありがたいです。最近は若いお客様も増えていて、もちろん常連さん以外のご来店もお待ちしています。
一見さんは入りにくい?
NO 初めてのお客様にも見やすいように工夫しています
── なるべく店内は見やすく、わかりやすくしています。本当でしたら、もっと多くの書籍を詰め込むこともできますが、お客様が来店されたときに、ほっとするような雰囲気にしたいので、空間を広めにとるように心掛けています。
店内の本の並べ方として、お客様の興味関心を引き出す要素をちりばめるようにしています。マンガの歴史が一通り辿れるような代表的なものを揃え、そこから派生するマンガを周辺に配置しています。
例えば白土三平といえば『月刊漫画ガロ』のイメージを持たれている方が多いので、白土三平の作品の周辺に『月刊漫画ガロ』に連載をしていた作家を集めるといったことです。また、ジャンルの違うマンガでも、テイストが似ていたら隣に並べ、お客様の興味が尽きないように、どんどん手にとって楽しんでいただこうと思っています。
店員さんも相当のマンガ好き?
YES
── 子どものころはダイレクトにマンガの影響をうけますよね。
そのときの気持ちをずっと胸の中にしまっておいて、大人になったときに、自分の人生の中で、何か決断に迫られた時の参考にしたり、ヒントにすることが多いと感じます。お客様にもこのお店に来てくれることで、初心にかえってもらうというのを、お店のテーマとしています。
ネット販売は敵?
NO でもお店にしかできないこともある
── ネットで古本を購入したいという需要があるのは理解しています。何か欲しいものがあって、それを狙いうちで買うという点では、便利ですよね。
そういった中でも、古本の街、神保町にお店を構えるということには意味があるのかなと思っています。お客様に、実際の本を手にとってもらい、お目当てのものを発掘してもらうこと、またお店の雰囲気から昔を思い出すことは、店頭だからこそできているのかなと思います。
店内には、マンガや雑誌だけでなく、マンガ家さんのサイン色紙など、楽しいグッズもたくさん置いてあります
古本は昔のものであればあるほど高価?
NO 古い=買い取り価格が高いとは限りません
── 例えば同じ時期に発売された雑誌でも、表紙や特集の内容によって、値段が大幅に上下します。本の保存状態や内容で値段が決まってきます。
実際に「週刊 少女フレンド」の1972年12月5日号を値付けしていただきました!
なんと当時の定価は90円!
1.状態をチェック
まずは、本の状態をみていきます。
はがれていたりシミやシワ、やけがあります。しかしこちらは比較的良い状態で、並本です。
2.発売時期
次は年代です。こちらは発行が昭和47年ですが、そこまで古い方ではないです。
少女雑誌は少年雑誌と比べると出回っている数が少なく、また、70年代のものは貴重です。しかしそういったものが、必ずしも高値にはならないというのが、値付けの難しさです。珍しいものでも、探している人が少なければそこまで高い値段はつきません。
昭和35年~45年の60年代のものを探しているお客様が最も多いので、おのずとその頃の雑誌が1番高くなります。
3.内容
作家の方の顔ぶれや、扉カラーの有無をみます。
扉カラーがあると値段が高くなります。(こちらの雑誌にはついていませんでした)
このような総合的な判断がされ、買い取り値段は500円とのこと!
家に眠っているマンガがありましたら、持っていってみるのはいかがでしょうか。
(※こちらの雑誌は持ち帰ったため、店頭にはありません)
今ではこのように、年代や状態、供給と需要のバランスをみてつけられる値段ですが、この方法が当たり前でない時代がありました。
古本マンガに価値があると見出し、値段をつけはじめた第一人者が、なんと西山さんの師匠である、中野書店の創業者、中野實さんとのこと!
以前は年代などで、おしなべた値段をつけて販売されていた古本マンガ。しかし中野實さんが、手塚治虫のマンガに高値をつけ、中野書店で販売しました。それ以来、古本マンガはただの「おふるのマンガ」というものではなく、希少性のある、価値のあるものとして扱われるようになったそうです。
仕入れはお客さんから?
YES その他に、市場からも仕入れています
── 仕入れ方は二つあって、まずはお客様からの買い取りで、もう一つは市場で買い付けをします。
市場は平日の月~金に神保町の東京古書会館で行われていて、曜日ごとに様々な品目にわけて出品されています。マンガや雑誌が取り扱われる、週2、3回市場に出向いて入札します。
お客様から買い取ったものも、当店の取り扱いジャンルでない書籍は、事前にお伝えしたうえで、市場に出すことがあります。しかるべきお店にあったほうが、その本にとってもいいですよね。
人気なジャンルはあるの?
YES 怪獣もの、アイドルものが人気です
── 雑誌の表紙や特集が、怪獣だと人気ですね。今は好みが細分化されていて、古いマンガそのものが好きというよりも、怪獣の特集の部分だけを目当てに探される方も増えましたね。あとは、70年代のキャンディーズなどアイドル歌手も人気です。
ホラーものも人気があります
幻の古本が奥の方からでてくる
YES 手塚治虫の新宝島 販売価格120万円
── 先日市場で手塚治虫の新宝島を手に入れました。久しぶりに目にして興奮しました! 昭和22年の4月発売ですが、状態もよく発色もきれいです。手塚治虫の初めてヒットした単行本で、今読んでも、スピード感があって、映画をみているようです。販売価格は120万円です。
鍵付きのショーウィンドウに大切にしまわれています!
( ※現在は売却済みです!)
店員さんがもう一度出会いたい本はあるの?
YES ロケットマン
── 今まで1、2回しか目にしていない水木しげる先生の描いた『ロケットマン』というものがあって、昭和33年頃に発売されたものですが、すごくかっこよかったんですよね。今はもう全然出てこないです。
仮面少年もおすすめとのこと
古本離れが進んでいる
YES しかし若者のお客さんが最近増えている
── 古本離れというのはお客様の来店数をみても感じます。
20年前は常にレジが動き、在庫が店頭では収まらず、倉庫をかりていました。仕入れは市場で台車2台分くらい買っていましたね。
しかし最近は30代の若いお客様も来てくれるようになってきて、80年代の雑誌を懐かしそうに読まれています。例えば、女性だと、『なかよし』のセーラームーンなどですね。
若い世代でも、小さいときにみたマンガを覚えているんだなと、ほっとします。神保町は古本の街でもありますが、食の街でもあります。ですので、マンガ好きという方でなくても、レストラン目当てで周辺を巡っている若者が古本を覗いてくれます。
人気があるのは手塚治虫?
YES 他にも宮崎駿監督、高畑勲監督のセル画も人気です
── 人気のあるマンガ家さんたちはマンガを描く理由がありますよね。きちんとしたものを次の世代に伝えたいという優しさが入っているように思えます。
直接的に道徳的なことを表現するわけではないんですが、読者は「こういうことをするべきではないんだ」というのが、なんとなくわかってくるんですね。
コマの流れの中でそういったことが醸し出されるというのは、マンガならではの伝え方だなとと思います。
さいごに
古本屋さんは世の中にとってどういう存在ですか
── 歴史を残す一役を担っていると思います。日本は昔の伝統を受け継いだうえで、新しいものを取り込むことが得意な国です。日本のマンガも、新しいものをどんどん取り入れて、今や世界的に人気になっています。実際に店頭にも外国の方が来店されることもあり、世界にマンガの歴史を残すという一躍を担っているのは嬉しく思います。
また、店を構えることにより、本の並べ方から、マンガの歴史を読み取れるようにしたり、昔の時代の雰囲気を伝える役割もあると思っています。
西山さんありがとうございました!
神保町の古本屋さんというと、敷居が高い……と緊張していたのですが、夢野書店さんに一歩入ると、そのレトロな雰囲気にうっとりし、緊張が一瞬のうちに好奇心に変わりました。
マンガに詳しくない方でも、サザエさんや、セーラームーン、まことちゃんなどお馴染みのキャラクターに盛り上がること間違いなし!
是非今度の週末は神保町、そして夢野書店さんで過ごされるのはいかがでしょうか?
夢野書店 アクセス | 合同会社夢野書店
投稿者 大塚芙美恵