イノベーションてどうやるの? 図書印刷株式会社新ビジネス推進部の場合
こんにちは、岩崎書店イノベーション部の元吉です。
今年の7月からイノベーション部という新しい部署に異動になり、今回がはじめてのブログです。
イノベーション部はその名のとおり、今までにない新しいこと、やり方を見つけて実行することが使命の部署です。しかし、何をどうやったらいいのかさっぱり分からず、思い悩んでいました。
そんなある日、岩崎書店と取引のある、図書印刷の方から、図書印刷にも『新ビジネス推進部』というイノベーション部のような部署があることを聞きました。
そこで、新ビジネス推進部を取材させていただき、ブログの記事にできれば、自分にとって今後のヒントになるかもしれない。そして岩崎書店の社員にとっても他社の取り組みを知ることは、大きな刺激になるのではないかと思いました。
ということで、東京都北区東十条の図書印刷本社にて、お話をうかがいました。
新事業を始めるには、社内風土づくりが大切
─── さっそくですが、新ビジネス推進部発足のきっかけはどのようなものだったのでしょうか?
新ビジネス推進部は、2015年に発足し、今年で3年目となります。発足以前の社内には、ペーパーメディアのマーケットの落ち込みに対して強い危機感がありました。社全体の「何か新しいことをしなくては!」という機運を組織というカタチにしたのが新ビジネス推進部です。
新しいことと言っても、新しい事業を始めることばかりが、新ビジネス推進部の業務ではありません。既存のペーパーメディアについても、新しいやり方を模索するのも大きな役割と考えています。
印刷会社という立場で、今まではお客様のコンテンツを預かり、本やポスターなどの紙物に変えていく業務がメインでした。これからは、そのコンテンツの価値をいかに最大化していくかも大きな業務のひとつと考えています。
─── 部署が発足して、初めて取り組んだ案件は何ですか?
最初に取り組んだのは、社員応募の『ビジネスアイデアコンテスト』でした。新しい事業の種を作れというミッションで立ち上がった部署ではありますが、最初はやはり、何をしたらいいのか分からない状態でした。そんな中で、先ずは社員にビジネスのアイデアを聞いてみました。
このコンテストを行った理由は、会社全体で新事業に取り組むには、それなりの風土が必要だと思ったからです。そして、その風土をつくるためには、参加型のコンテストがいいのではと思いました。
─── 部署発足前から、風土づくりが肝になるだろうと予想されていたのですか?
そうですね。やはり、どうしても新ビジネス推進部が立ち上がると、社内の雰囲気として、その部署の人たちだけが何か新しい事業を作ってくれるだろうというイメージになりがちです。もちろんそういったケースもあるのですが、大事なのは、一部の人間だけではなく、「みんなで取り組むぞ!」という大きな雰囲気をつくることだと思いました。その雰囲気がないと、新しいことを生み出す人たちが、どうしても孤立してしまいがちです。孤立を防ぐ為にも雰囲気づくりは大切だと思いました。
─── 初めての募集で、どのくらいの応募がありましたか?
応募総数は、30件ほどありました。
─── 社員数が約2,000人の御社にとって、会社全体に募集をかけて、30件という数はどのように捉えられましたか?
当初は、もっと苦労すると思っていたので、意外にたくさん応募が来たな、と感じました。
─── 集まったアイデアについては、新ビジネス推進部で審査をされたのですか?
2015年の部署立ち上げの際に、事業インキュベーションの事業化に向けて、あるコンサルティング会社とコンサルティング契約をしています。コンサルティング会社の助言もあり、雰囲気づくりの大切さを認識し、今回のコンテストを行いました。
コンテストは、我々新ビジネス推進部も審査員になりましたが、他の部署のマネージャーを何人かピックアップして審査員になってもらいました。そして、第三者の目線で、コンサルティング会社の方にも審査員になってもらいました。
第一次審査で14件に選別し、それを経営陣に見せて、最終的には2件に絞り、事業計画書の立案まで持って行きました。
2件のうちの1件は、『Chiik!』という幼児向けの教育メディアです。2016年にサイトをオープンして現在も運営中です。もう1件は、小ロットの作品集やフォトブックをつくるという企画で、現在テスト中です。
まだ自分の作品を出していない新しいデザイナーやイラストレーター、カメラマンの方々に、図書印刷の製造技術で、クオリティーの高い写真集や作品集をつくりませんか?と聞いてみました。すると、彼らはモチベーションはあるのですが、費用の問題があり、この企画は一回頓挫しました。現在は、クラウドファンディングを利用した方法を考えています。
─── 偏りなく、たくさんの部署からの応募があったのですか?
そうですね。バラエティーに富んだ部署から応募がありました。全社を巻き込むという目的は成功したと思っています。
─── コンテストの社内への告知方法について教えて下さい。
岩崎書店でも、全社向けの情報について、メールや掲示板などで伝えています。それでも、周知徹底が難しいですが、何か工夫などはされていますか?
基本的にはメール、社内のイントラネット、工場などは、パソコンなどのデバイスがないので、ポスターなどで告知しました。その上で、各部署に我々が直接説明に行きました。
やはりそれでも周知は難しいので、部署ごとで、こういった新しいことに興味がありそうな人を口説いて活動に巻き込んだりしました。あとは、トップから取締役、役員、部長、マネージャーという流れで、ある程度周知してもらいました。
ワーキングママの悩みが新事業に
─── 『Chiik!』について、詳しく教えていただけますか?
『Chiik!』の起案者は、育児休暇明けの30代前半の新ビジネス推進部の女性社員です。
彼女は、自分が両親から受けたような教育を自分の子どもにも授けたいと考えていました。しかし、彼女はワーキングママでその時間が限られています。働きながら子育てをして教育も授けていきたいが、どのような教育をするべきかという情報ソースの入手が難しい状況でした。そこで彼女自身が、その情報ソースを立ち上げたいと考えたのです。
教育というと、どうしても英才教育のような堅苦しいものになりがちですが、読書体験や季節ごとの体験など、仕事の合い間でも、長く継続して気軽によめるものを提供しようとスタートしました。図書印刷には、学校図書株式会社という教科書会社があり、創業当時から教育文化の領域に対しては注力してきました。
─── 『Chiik!』の取組や、工夫などについて詳しく教えて下さい。
『Chiik!』はウェブメディアですので、より多くの方に知って、見てもらう必要があります。しかし、告知の為の予算を、初めから大きく投入してしまうと、息切れしてしまって長続きしないのではないかと考えました。ある一定の成長曲線を保つことができるよう、細かく予算を投入しました。
そして、一度記事を読んで下さったユーザーが、このメディアの応援をしてもらえるような仕掛けづくりも必要だと思いました。
記事の中身の充実ももちろんなのですが、それ以外に、フェイスブックのフォロワーの方々に、我々の記事を定期的に情報発信しました。これは、とても効果的だったと思います。
イベントも行いました。最初に取り組んだのは、読者座談会です。
『Chiik!』の読者の中から想定読者を集めて、子育てや、教育について皆さんで議論してもらって、それを記事にしました。
例えば、お父さんたちに集まってもらって、自分達の教育の理想論について議論してもらうという企画もありました。
その他には、上野の森 親子フェスタにブース出店して、ワークショップを行いました。
ご来店いただいた方に、フェイスブックの「いいね」や、ツイッターのフォローをお願いしました。ご協力下さった方には、マスキングテープなどをプレゼントをしました。
記事について、当初は苦労もありましたが、ママライターさんたちの協力もあり、現在は一日5本の記事を掲載しています。
─── 現在のフォロワー数などはどのくらいなのでしょうか?
月間の読者数が約20万人で、フェイスブックのフォロワー数は1万5千人くらいです。
この数字は、どこかのタイミングで一気に増えた訳ではなく、スタート時点から、同じ成長曲線で少しずつ増えていきました。
今はこの『Chiik!』を成長させて、ビジネスとして成功モデルにしたいと思っています。
これからの新事業は、シナジー効果がポイント
─── 新ビジネス推進部の課題と取り組みについてお聞かせ下さい。
新ビジネスのネタが必要なのですが、どうしても社員からのアイデアを募集するだけでは、限界があると感じています。
今後、新しく出てくるビジネスは、企業の組み合わせがポイントになってくると考えています。
昨年から、ベンチャーキャピタルファンドに出資して、ベンチャー企業との協業を模索しています。ベンチャー企業の技術は先進的で、独創性に溢れ、魅力的なサービスが多いのですが、人手不足でそのサービスを広められないという悩みを抱えています。
我々は、それを広げる為の人材や、営業網や、接点を多く持っています。お互いに不足している点を協力し、サポートし合うことで、大きなシナジー効果が生まれると思っています。
2015年の年末頃から、ベンチャー起業家の方をお招きして、図書印刷の社員向けにプレゼンの機会を設けています。
ベンチャー起業家の話を社員が聞いて、社内風土づくりにも大きく役立つと思っています。やる気になれば、自分たちも何かできるのではないかと思うきっかけが大事です。自分にアイデアがなくても、ベンチャー企業と組むことで、何かできるのではないか?人によって色々な考え方できるようになるので、化学反応を起こす期待感が高まり、企業風土が上がっているのを肌で感じています。
─── プレゼンするベンチャー企業というのは、どのように決めているのですか?
ベンチャーキャピタルファンドと毎月定例でミーティングをしています。そこで、ベンチャー企業のリストを見せていただく機会があり、我々が興味を持った企業についてピックアップしています。
そして顔合わせの場をセッティングして、お話をうかがったうえで、面白い、社員に聞かせたいと感じた場合は、講演会やプレゼンへの登壇をお願いしています。
ベンチャー企業側としても、事業会社との連携というのは大きな意味とメリットがあります。
今までは社内向けとして開催していましたが、今後は取引先様を招待した講演会やプレゼンを企画したいと考えています。
新事業への協力者にもメリットが必要
─── 今一番苦労していることは何ですか?
繰り返しになりますが、仲間集めがこの部署の肝であり、色々な部署の協力が必要になります。しかし当然ながら各部署には既存の業務があります。協力してもらうには、その業務に少なからず影響が生じます。新しい業務を進めていく場合に、どうしてもそこが壁になってしまいます。
協力を依頼する際に、ただ協力を要請するだけではなかなかうまくいきません。実際に協力してくれた人はもちろん、人材を送り出す部署に対してのメリット、部署のマネージャーに対してのメリットがなくてはいけません。
人事制度で上手くできないかを検討しているところなのですが、諸々問題もあり、なかなか難しい問題です。
他に実施していることは、協力して下さった方を、とにかく持ち上げるということです。人材を出してれた感謝の気持ちを関係者に伝えること。そして協力してくれたことを上の人間に伝え、関係者を褒めてもらうという作業を丁寧にやっていくことが大切だと思っています。今はそれくらいしかできていないのが実情です。
鶏が先か、卵が先かという話にはなりますが、先ずは成功例が大切だと思います。成功事例により、各部署の協力も得られるようになると思います。
─── 最後になりますが、新ビジネス推進部を、今後どのようにしていきたいかをお聞かせ下さい。
一つ目は『Chiik!』を成功モデルにする。二つ目は新ビジネス推進部メンバー主体での新たなビジネスの立ち上げ。三つ目はベンチャー企業との協業を実現、加速させる。そして、近い将来、新ビジネス推進部で始めたビジネスを、年間10億円規模に育てたいと思っています。
おわりに
岩崎部長のお話をうかがって、私が感じている悩みと同じ悩みを持っていることを知り、少し勇気をいただきました。小さな世界だけで考えていても新しいアイデアは生まれません。色々なところで情報を収集し、とにかくやってみる!という気持ちが大切なのだと思いました。
社内の雰囲気づくりが大切だと痛感しました。新事業は、既存の業務にプラスされる形になるので、他部署のサポートか難しいです。
そのための社内風土づくり、制度づくりは、イノベーション部として大切な役割になるのかもしれません。
イノベーションは、ひとつの小さな部署だけで実現できるものではありません。全社的な協力があってこそ、実現できるのだと思います!
最後までご覧いただきまして、ありがとうございました。
投稿者:元吉