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児童虐待8

 昨年8月に『赤ちゃんが頭を打った、どうしよう!? 虐待を疑われないために知っておきたいこと』(岩崎書店刊)を刊行したあと、行政処分や裁判所の関りについて改正がありましたので、そのいくつかをこのブログで取り上げたいと思います。
 ここでわかっていただきたいのは、「疑われたら」大変な目に遭うということです。

小児脳神経外科医の藤原一枝先生の投稿です。

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藤原一枝

藤原QOL研究所 代表

元・東京都立墨東病院脳神経外科医長

愛媛県松山市生まれ。岡山大学医学部卒業後、日赤中央病院(現・日赤医療センター)小児科・国立小児病院(現・成育医療センター)小児神経科を経て、1974年から東京都立墨東病院脳神経外科勤務。1999年藤原QOL研究所設立。2012年からの中学1,2年の武道必修化に対し、青少年の柔道事故死の中に脳振盪軽視があることを分析し、警告を発した。国際的なスポーツ脳振盪評価ツール(SCAT)を翻訳し、公開している。

出版物は「まほうの夏」「雪のかえりみち」(共に岩崎書店)など児童書のほかに「おしゃべりな診察室」「医者も驚く病気の話」「堺O-157 カイワレはこうして犯人にされた!」など。

虐待を疑われた時の傾向と対策

1、通告されるかもしれない

“虐待”や“虐待の可能性”を疑うのは医師や病院側です。その疑いがあった場合、家族に「何月何日、児相(児童相談所)に通告しました」と教えてはくれません! それは治療への影響や親の狂乱を恐れてのこと。
多くの場合、退院できそうな時期に親を呼び、児相に通告したことを伝えます。そして同時にそこから、担当を児童相談所(児相)の職員にバトンタッチして「一時保護しました」と伝えているようです。
もし、頭を打って手術をしたとか、麻痺が残ったという重篤な場合だけでなく、第三者がいない家庭内の事故の場合でも、虐待を疑われそうだと思ったら、早めにセカンドオピニオン医や弁護士に相談するのがいいかもしれません。

2、児相職員がきらいなもの

2019年5月24日付の朝日新聞デジタル版は、次のような見出しで始まっていました。「『子どもを返せ』数時間罵倒 親の圧力に悲鳴をあげる児相」。
業務の増大や、敵意をあらわにする特定の親への対応のため、児相の現場で悲鳴が上がっていることをレポートした記事です。過酷な職場に定着率は低く、専門性が上がらないことも指摘しています。児相寄りの内容ではありますが、事実の一面でもあります。
児相職員と相対しているのは、虐待をした親ばかりではありません。
虐待をした、とまちがえられて子どもが一時保護された親も半狂乱であり、抗議の声をあげています。
かつての児相勤務者に聞くと、「親からのクレームや罵倒」の結果として、職員の警戒心から、うるさい親には“リスクが高い“という評価を下し、真実の追求から遠ざかることも起こりうるようです。
万一、子どもが一時保護になったら、親には「児相職員に悪印象を持たれないように」とアドバイスするしかありません。
なお、筆者が訴え願っていることは、反省を込めて、「“現場の医師の診断力の向上”により、通告や一時保護を減らしたい」という点です。最初の医者がまちがえると、児相職員に余分な仕事を増やすばかりですから。

3、一時保護と指導など

児相は調査を行い、会議で子どもの「援助方針」を決めます。一時保護の期間は原則2か月未満で、一時保護の目的が達せられたときに一時保護が解かれます。
引き続き、児相の大事な業務には、「保護者への指導」「家庭への支援」があります。
一時保護は、子どもの安全確保とアセスメント(調査に基づき分析し判断すること)を行い、「助言指導」「継続指導」「児童福祉司指導」「児童委員指導」といった指導や支援の方針を決定するために行うものとされています。
これらの指導や支援は、一時保護が短期だった家族にも行われ、長い場合には半年~1年以上続きます。これらの指導や援助の一環として、「親子再統合プログラム」「ペアレントトレーニング」といったものを受講することを求められることがあります。

①一時保護決定通知書とは?

一時保護決定通知書には、以下の記載があります。
「あなたが保護者等となっている次の児童等について、児童福祉法第33条の規定により一時保護しましたので通知します。」とあり、「一時保護開始の時期」は記入がありますが、次の2点は無記入です。
・一時保護所または一時保護委託先の名称
・一時保護所または一時保護委託先の所在地  
最大の保護理由は異口同音、以下のような「児の安全保護のため」と書いてありますが、調査期間にも、面会の可能性についても触れられていません。
乳幼児頭部外傷についての調査期間は、日本では、短くて2週間、おおかたは4〜5週くらいです。

一時保護の理由
保護者から著しく不適切な養育が行われていた疑いがあり、児童の安全を迅速に確保し適切な保護を図るため、また児童の心身の状況、その置かれている環境その他の状況を把握するため、一時保護が必要である。

②一時保護解除になったら?

児相の目的は達したので、保護は解除となり、子どもは自宅に戻ります。一時保護解除決定書などの書類が数枚、渡されます。
(1)一時保護解除決定通知書
あなたが保護者等となっている次の児童等について、児童福祉法第33条の規定による一時保護を解除したので通知します。この書類は単純です。

解除の理由:家庭引き取りのため、一時保護解除とします。

(2)指導措置決定通知書
あなたが保護者等となっている次の児童等について、児童福祉法第27条第1項第2号の規定により次のとおり児童福祉士指導の措置をとりましたので通知します。

措置番号 氏名 生年月日 性別 摘要
         
保護者等居住地 ○○
指導の開始時期 年月日
措置理由又は指導内容 月1回程度の来所面接又は家庭訪問により、家庭状況の確認をします。
心理面接にて本児の発育、発達状況を確認します。
指導担当者 職 氏名
勤務場所
児童福祉司  ○○
○○児童相談所
(3)指導措置決定通知書
あなたについて、児童福祉法第27条第1項第2号の規定により次のとおり児童福祉司指導の措置を採りましたので通知します。

措置理由又は指導内容 本児が落ち着いた生活ができるよう生活の安定を目指すため、月1回程度の来所面接又は家庭訪問等を実施し、家庭状況を確認していきます。
(4)付録:「約束事」 
「正式の書面にすると、法的な問題があるので」と言い訳されながら、以下の文章が渡され、署名捺印を要求されます。
これは明らかに、指導支援というだけでなく、虐待していない親にとっては、監視や脅しつきの扱いです。

約束事
家庭引取りするにあたり、以下のことを約束します。
 

  1. 子どもの安全を責任をもって守っていきます。
  2. 関連機関(保健センター、子ども家庭支援センター、児童相談所)からの家庭訪問を受け入れます。電話に出られない場合は折り返し電話して連絡を取り合います。
  3. 子どもの成長に合わせた養育環境については、関係機関の意見を参考にして整えていきます。
  4. 緊急時には子どもの安全を第一に図るため、119番通報をします。
  5. なお、私たちが努力する中で、上記約束が守れなかった場合には、児童相談所の助言に基づき、児童相談所による一時保護、児童福祉法第27条の規定による措置(児童福祉施設入所・養育家庭委託)をとる可能性があることを了承します。

東京都〇〇児童相談所長 殿

年 月 日
氏名         印

 

4、不服申し立て

一時保護に不服の場合は、児相を設置している自治体の長に、行政不服審査法に基づく「審査請求」の申し立てることができます。行政不服審査法に基づく「審査請求」ができる期間は、処分を知った翌日から起算して3か月以内です。
また、地方裁判所に対して自治体を被告として、処分の取消しの訴えを提起することができます。
ただし、いずれも、審理には相当の時間がかかることが多く、一時保護されている2カ月以内に決着がつくことは稀です。

5、家庭裁判所の関与

児相が、一時保護の開始から2カ月を超えて一時保護を継続しようとするときに、親権者の反対がある場合には、児童相談所長は家庭裁判所の承認(司法による審査)を受けなければなりません。

6、親子分離が必要な「要保護性」が認定されると児童福祉施設等に

「児童虐待があり子どもの福祉が著しく侵害されている」を認定されると、親子分離が必要と判断され、児童福祉施設への入所などの措置がとられます。
おおむね2歳以上では児童養護施設、2歳未満では乳児院が主な入所先となります。 
この場合、面会等についても児相や施設長の指導や指示を受けることになります。
なお、保護者の親権の乱用と見なされて面会や通信が制限される場合や「接近禁止命令」が行われることがあります。この場合には、一時保護や施設入所の決定と同じように文書によって告知され、不服申し立ての対象となります。
施設からの退所も、児童相談所長の決定によることになります。

7、施設入所措置

児相は、施設入所等に親権者が同意するかどうかを確認するために、親権者に対して書面に署名することを求めます。
これに同意しない場合には、署名する必要はありません。しかし、その場合でも、児童相談所は、家庭裁判所に対して、児童福祉法第28条による「申し立て」を行い、家庭裁判所が親権者の「審問」や「家庭裁判所調査官による調査」を行い、児童相談所が行う施設入所を承認する旨の審判を出した場合には、親権者の意に反しても施設入所を行います。

8、家庭裁判所の決定に不服がある場合

家庭裁判所の審判後にその決定に不服がある場合は、高等裁判所に即時抗告をすることができます。申し立て可能な期間は2週間です。