聞かせ屋。けいたろうに【聞かされてみた!】<後編>よみきかせ実践ワンポイントレッスン
こんにちは、gimroです。
シリーズでお届けしている、「聞かせ屋。けいたろう」さんに【聞かされてみた!】。
前回までの<前編>・<中編>では、けいたろうさんのユニークな経歴と絵本との向き合い方についてのインタビューを掲載いたしました。
最終回となる今回は、けいたろうさん直伝「よみきかせのワンポイントレッスン」です。めくっていただいているのは、『おおやまさん』。
──本のめくり方など、よみきかせの極意をお聞かせいただきたいのですが。やはり、一番を引くのが綺麗なめくり方です。どんなところに気をつけていますか?
絵本はできるだけ手で絵を隠さない持ち方、めくり方をします。
こういう感じで!
上をめくると絵を隠しがちになる、横を持っても隠してしまうので、僕は下を持つことにしています。
めくるときはこういう感じで…。
あと、表紙・見返し・裏表紙は見せた方がいいです。これは大事に見せましょう。絵本の魅力を余すことなく伝えることができます。
──それにしても手が器用ですね。楽器をなさっていることもあるのでしょうか。
そうかもしれません。どうですかね。すべてのことに通ずるのは絵本を立てること、絵を大事に見せることですね。
──なるべく下の方をめくるのですね。
できるだけ絵本が動かないように、僕はいつも下の方をめくっています。映画館のスクリーンも動かないですから。
できるだけ持ち手は動かないようにしつつ、すっとめくる。絵本の絵をじっくり味わえるようにということですね。
──めくってからの「間」には気をつけてらっしゃいますね?
よみきかせをしている時に、速いといわれることはあっても、遅いといわれることはなかったんです。
子どもたちは、自分が思っている以上に絵本の絵を楽しめるのではないかと気づきました。人は人の目の前に立つと緊張して早口になるのと同じように、よみきかせでも同じことがいえるのではないかと。ゆっくりめくることを心がけるとよいと思います。
──読み方、めくり方以外で気をつけていらっしゃることは?
繰り返しになりますが、まず自分が楽しめる本を選ぶことですね。自分が楽しいということが子どもに伝わっていくと思うので。
──あとは音もありますね。
赤ちゃん絵本は特にそうなのですが、「ばびぶべぽ」「ぱぴぷぺぽ」「まみむめも」という両唇音というのがあって、これは赤ちゃんが楽しむ音なんです。
赤ちゃんにとって繰り返しいいたくなる美味しい音。パパ、ママ、ブブ、とか、英語だとpeekaboo(日本語訳で“いないいないばあ”)もそうですね。
『ももも』(岩崎書店:2015年刊)、『ぱかっ』(ポプラ社:2017年刊)とか。往年の名作でいうと『もこもこもこ』(文研出版:1977年刊)とか『じゃあじゃあびりびり』(偕成社:1983年刊)とか、いずれも音が楽しい絵本が多いですね。赤ちゃんにとって心地よい音は特にお薦めです。
──『ももも』を選んだ理由はそこにあったのですね。
おとなも赤ちゃんも楽しめる本ということです。
糸へんに会う本、で絵本
──坂口さん、「けいたろう」が他のよみきかせの方と違う点はどこだと思いますか?
僕は絵本の人と人がつながるところ、読み手と聞き手がいることが素敵なことだと思っています。
絵本って【糸へんに会う本】って書くじゃないですか、よくできているなと思います。出会いを糸で結んでくれているのが本のような気がすると思うんですよ。今まで路上でも、初めて会った人とつながってこられたし、今日の子どもたちとも笑顔でつながれるのは絵本があってのことなんですね。
人と人のつながりを大事にしていきたい。絵本の一番素敵なところはそこだと思っています。
ということで、ひょっとすると目的が違うかもしれません。
──「糸へんに会う」ですか…。習ってから何度も目にしている漢字のはずなのに、初めて聞きました。
これは、いつも絵本の講座の最後にもいっているのですが、まさにそうだと思います。
親と子がつながる、おとなとこどもがつながる、絵本の役割はそこだと思っています。おとなとおとなでもつながりますし、人と人とがつながるツールと僕はとらえています。
──これからもよみきかせは続けていくと思いますが、目標はありますか?
目標は今と同じ距離感でやりたいと思っています。今がベストだと思っています。
もっと大きい会場でやりたいとか、もっと有名になりたいとか、そういうことは思っていなくて、むしろ小さい会場でやった方がいい。それは絵本だから。
生の絵がとどく範囲、僕の生の声のとどく範囲でやりたいと思います。本来、絵本は親子や少人数でみるものなので、無理をさせているという意識はあるのですが、何とかとどく範囲でやりたいです。
──本日は、本当に長い時間、ありがとうございました。
インタビューを終えた直後、こんなことも言っていた。
「365日のうち、160~170日はよみきかせをしている。聞かせ屋は、年を重ねた方が味が出てくると思うので、生涯現役でやっていきたい」
一瞬、「聞かせ屋。けいたろう」ではない、坂口慶の顔が見えるかな…。
そう思った矢先に「ではまたどこかで! お疲れさまでした」。
挨拶を終えるとあっという間に、けいたろうさんの背中は、灯りの明るさが目立つ神保町の街角へと溶け込むように消えていった。
屈託のない笑顔。聞かせ屋。という職人のイメージが漂う名前とは裏腹に、優しいお兄さんのような雰囲気がまた素敵な方、それがけいたろうさんだ。
今日もウクレレや笛の音から始まるよみきかせが、どこかで行われていることだろう。
Special thanks:Book House Cafe
www.bookhousecafe.jp
投稿者:gimro