二次元のキャラクターもプラモデルをイメージしながらデザインしています〜ありがひとし先生の「ようかいとりものちょう」作画術〜
みなさんこんにちは! 「岩崎書店のブログ」管理人の大塚芙美恵です。
今回は、『ようかいとりものちょう』の最新刊『雷撃! 青龍洞妖海大戦・天怪篇参』が発売されたのを記念して、作画を担当されているありがひとし先生にお話を伺いました!
ありが先生は 、本の挿絵だけではなくゲームのキャラクターデザインや攻略本のイラスト、漫画やアニメの制作など、幅広い分野で活躍されています。
ご本人に「ご職業はなんといえばいいですか?」と伺ったところ、「絵を描く人」とおっしゃっていました!
今回のインタビューでは、『ようかいとりものちょう』の制作裏話はもちろん、
「絵描きさんになったきっかけは?」
「普段はどのように絵を描いているの?」
「どうすれば先生のように絵が上手くなれる?」
など、本以外の気になることも聞いてきました!
ようかいとりものちょう (7) 雷撃! 青龍洞妖海大戦・天怪篇参
- 作者: 大崎悌造,ありがひとし
- 出版社/メーカー: 岩崎書店
- 発売日: 2017/07/29
- メディア: 単行本
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最新刊では、キャラクターデザインの参考に八景島シーパラダイスまで行ってこられたとのこと。「オタリア」というアシカをモデルにした新しいキャラクターも出てきますので、お楽しみに!
「江戸時代にはない」ってダメ出しが入る?
── 本日は『ようかいとりものちょう』の作画についてや、ありが先生の小さい頃のお話しなど、お聞かせてください。よろしくお願いします。
ありがひとし先生(以下「あ」) よろしくお願いします。
── 『ようかいとりものちょう』は、江戸時代の雰囲気が感じられる本ですよね。以前から江戸の絵は描かれていたんですか?
あ いいえ、初めてなので、江戸時代に描かれた浮世絵や版画を見て研究しています。北斎漫画がとても砕けたタッチで描かれているのでそれを採り入れたり、様々な浮世絵、版画などを参考にしています。
色の判断はグラフィッカーである奥さんが手伝ってくれてまして、たまに私が奇抜な色を選ぶと「その色は江戸時代っぽくない」ってダメ出しが入ったりもします(笑)。昔ながらのことを今の子ども達に翻訳して見せるのが私の役目だと思っています。
── このページがすごいですよね。
あ そこは最初の巻の最初の妖怪お江戸なので、頑張って描きました。完全再現まではしてないのですが、日本画や版画のビューの多くは、45度上空から見てるものが多いので、そういう空気は感じさせたいなあ、と。 あと、気に入っているところは1巻のコマとコマの間を雲にしているところです。
石川編集担当(以下「石」) こういうコマ割り、もっと描いてほしいです。別次元の世界を雲形のコマで割ったり、木の幹の輪郭の向こうがそのまま白地になったりと、新しい表現がいくつも見られます。
あ 毎巻実験しているので、描いていて面白いんですよ。
石 ありが先生は、いつもルーティンに陥らずに新しい表現に挑戦されますよね。一巻のイラストの、戦後間もない頃の絵物語のような雰囲気を現代風にアレンジしているのもとても好きです。
あ あとは、和のイメージを持ってもらうよう、初期はコン七の服などに和紙テクスチャーを使用して情感を出していました。また、一巻表紙のコン七は歌舞伎っぽく手をぱって広げ逆三白眼になるように描いたり、あとは表紙の絵の後ろには歌舞伎の垂れ幕風のデザインを入れてもらったり、随所に和の雰囲気を醸し出すように考えています。
── 絵を描くにあたり、江戸時代の版画以外にも参考にされているものはありますか?
あ ケーブルテレビで時代劇を観たりしています。もともと子どもの頃から時代劇が好きで、例えば四巻でも『銭形平次』からインスパイアされた「ゼニガメ平次」を描かせてもらい、とても楽しかったですね。
あ 『銭形平次』は、昔は定番でしたが今はあまりドラマ化されないですよね。そんな中で、妖怪という形になって新たに子どもの目に触れることにより、元ネタを知っている両親や家族たちと世代を超えて盛り上がってほしいという想いで描きました。
本当は、丹下左膳も「妖怪左膳」として出したいんです。(石川さんに)今の天怪編が終わったら、妖怪ヒーロー篇にしません? 鞍馬天狗とか石川五右衛門とか(笑)。
石 五右衛門いいですね(笑)。
── そんなに時代劇がお好きとは。では、とても楽しまれて描かれているんですね?
あ そうなんです。だから、裏表紙も頼まれもしないのにどんどん密度が濃くなって、後ろの背景が見えなくなるくらいキャラが詰まってしまいました。
背景に隠された「半紙」の秘密
── ありが先生の描く『ようかいとりものちょう』は、背景がとても不可思議な雰囲気があって素敵ですよね。
あ 背景は、一巻の頃から気をつけています。ちょっと変わった描き方をしていて、まずコンピューターで先に背景を描き、プリントアウトした後に半紙を重ねて筆でトレスしていてるんです。
そのトレスした半紙の絵をさらにスキャンして、コンピューターで描いたキャラクターと融合させています。半紙の銘柄にもごたわっていて、今のところ河口湖の方で売っていた半紙が一番馴染むので、それを使ってます。
── デジタルとアナログをミックスした、きわめて新しい描き方ですね。
あ アナログは、もちろん子どもの頃はそればっかりでしたし、デジタルも、比較的早い時期から慣れ親しんでいたので、両者を行き来するのに全く違和感がないんですよね。
石 そういえば、一巻にも筆で描かれた絵が登場しますよね。
あ そうですね。一巻のキャラクター紹介の部分は、あえて筆で描いてます。私は白土三平先生が大好きで、『カムイ外伝』や『ワタリ』の筆のタッチを意識しているんです。ここでは、逆にわざと擦れさせたりすることに一生懸命でした。
ヤスリがけのようにキャラクターを削っていく
── キャラクターはどのようにデザインされるんですか?
あ 大崎さん(原作者)や石川さん(編集担当)と話しながら、ノートやタブレット端末にスケッチし、その都度キャラクターの絵を共有しながらブラッシュアップしていきます。
以前ゲームのキャラクターを描いていたときは、限られた容量内で表現しなければならなかったので、その方法が体に染み付いているかもしれません。余計なところを削ぎ、特徴的な部分を残すよう心がけています。もっと良くなるよう、ヤスリがけをするような感覚ですね。
── なるほど。他に気をつけていることはありますか?
あ 古い時代のお話しなので、そこに更に古めかしいキャラクターを合わせると、今の子どもにはさすがに抵抗があるのではないかと思いました。そこで、どこかに現代風のテイストを入れ込み、今の子どもたちにも親しみを持ってもらうようには気をつけています。
あとは、妖怪ものとはいえ小学生が読者なので、怖くしすぎないことですね。子どもがもう一回開くのが嫌になってしまわないよう気をつけています。
今回特別に、普段は公開されないありが先生のラフスケッチを見せていただきました!
下は最初に描いた白虎です。コアに虎がいて、その外に氷の鎧をまとっているイメージです。
ブログで紹介できるラフスケッチはここまでです。更にご覧になりたい方は、ありが先生の作画の様子が見られる『ようかいとりものちょう』作画配信のアーカイブへ!
高校生からプロの道へ
── ありが先生は大変多くのお仕事をされていますよね。デザイン、漫画、イラストレーター、ゲームのキャラクターデザインなどなど……。
あ そうですね。出来ることを必死にやってきたら、色々なことをやらせてもらっていて。自分の肩書を、例えばイラストレーターや漫画家などとは断言できないと思うので、「絵を描く人」といつも名乗っていますね。
── こどもの頃から「絵を描く人」を目指していましたか?
あ はい。とにかく絵を描くことが好きで、アニメを描きたいなとか、お菓子のパッケージを描きたいなとか、当時から対象物は漠然としていましたが、ずっと絵を描く職業に憧れていました。ゲームも好きでしたので、友人宅でパソコンを触らせてもらって、ドット絵でいろんなキャラクターを描いたりもしていました。
── お仕事として描かれるようになったのはいつ頃ですか?
あ 高校2年生頃です。ゲーム雑誌の新作ゲーム情報や、ゲーム攻略本で挿絵の仕事をしていました。その頃は、自分で出版社に電話して、アポ取って、自ら営業して仕事をもらっていました。高校生だったので、出版社の人に驚かれていましたけどね。そう考えると絵描きのお仕事をいただけるようになってからもう随分と経ちますね。
── 高校生の頃からお仕事として描かれていたんですね! 高校卒業後はどういった進路を考えていたんですか?
あ 最初は漫画家のアシスタントになろうかと思っていました。そんな矢先、いつも通りゲームセンターにいたところ、ゲーム制作会社に勤めている友人に、うちの会社の面接を受けてみてくれって言われて。どうやらグラフィッカーが不足していたみたいなんですよ。
── 当時のゲームだと、ドット絵を描く人を探していたんですか?
あ はい。それで面接に行ったら「ちょっとやってみて」って、アニメーションを作れるソフトをいじらせてもらったんです。そうしたら面白くて、気がついたら深夜になっていました。もう終電がないから、朝までいていいよって(笑)。とにかくドット絵を描き続けて一晩中キャラクターを動かしていたら、採用されました。
── 一晩中! アニメーションの技術はどこで学んだんですか? 中割りとか難しくなかったですか?
あ 独学ですね。中割りは、映像を見て、頭の中で分解してたら描けてました。
── すごい! 見てるだけでわかるんですね! 当時、ゲーム会社以外のお仕事もされていましたか?
あ はい。その他にも並行して、攻略本や雑誌での4コマ漫画の仕事もしていました。漫画家デビューは、小さい頃から毎月読んでいた「コミックボンボン」でさせてもらいました。
── 高校卒業時の漫画家になりたい気持ちも継続してお持ちだったんですね。
あ ゲーム制作会社の同期のドッターが漫画家デビューして、「悔しいぞ、自分も描かなくては」と思い、編集部に持ち込みました。そのままゲームの4コマなどをやらせてもらうようになって、「コミックボンボン」での漫画もだんだん増えていきました。
プラモデルから学んだ
── ありが先生の絵って、3Dにしやすいですよね。
あ おそらく、小さい頃によく作っていたプラモデルの影響ですね。この部品はここにこんなふうに取り付けて組み立てようというふうに、二次元のキャラクターもプラモデルをイメージしながらデザインしています。
コン七の顔が、まさしくプラモデルの発想で作られました。頭のフォルムを決めたら、最初に前垂れのパーツをはめ込んで、次に前髪を乗せて──というふうに立体をイメージするんです。
↓ありが先生が今回特別に解説を書き下ろしてくださいました!
── 他にも、プラモデルから学んだことはありますか?
あ 「仕事を並行して行う」ということも教わりました。子どもの頃は、プラモデルを作っていると、色を塗った後に待たなければいけないじゃないですか。その時間がもったいないから、その間にいつも漫画を描いたりゲームを遊んだりしてたんです。そういった並行作業が、子どものときから習慣になったのはプラモデルのおかげですね。
── 最後に、絵を描いている子どもたちに向けて、何かアドバイスはありますか?
あ 絵を描きながら、そのキャラクターが、今何を考えてその顔をしているのかを想像しながら描くと、絵に魂が入りやすくなりますよ。そこを意識してほしいですね。
── 実際に描きながらご自身でキャラクターを演じられることもあるんですか?
あ ありますね。今、お仕事でアニメの脚本を書かせていただいているのですが、台詞を作成した後に声に出してみて、そこで引っかかる部分を直してます。気持ちを込めるのに、一回自分のフィルターに通すイメージですね。キャラクターのポーズを描くときも、本当にそれでいいのかなって、一回自分の体を実際に動かしてみるとしっくりくる事が多いので、絵を描くときにはぜひみんなも身体を動かしながら描いてもらいたいですね。
おわりに
今回は、ありが先生に『ようかいとりものちょう』のお話しのみならず、絵の描き方や先生自身の子どもの頃のお話しまで伺いました。
特別にお見せいただいたラフスケッチや、背景やキャラクターデザインのお話しを聞いた上でもう一度読みなおすと、また違った感想が出てきて楽しいです。
それでは、最後までお読みいただきありがとうございました!
最新刊はこちら↓
ようかいとりものちょう (7) 雷撃! 青龍洞妖海大戦・天怪篇参
- 作者: 大崎悌造,ありがひとし
- 出版社/メーカー: 岩崎書店
- 発売日: 2017/07/29
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一巻〜六巻もよろしくお願いします。
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投稿者 大塚芙美恵