絵本のタブーをぶちやぶれ! 編集者・堀内日出登巳が語る「絵本という名の闘技場」その2
こんにちは、キタガワです。
前回、岩崎書店の編集者、堀内日出登巳による講義「絵本という名の闘技場」冒頭部分をお届けしました。
今回も講義の続きをレポートします。
名作絵本の魅力や、絵本づくりの現場ならではの裏話をお楽しみください。
シンプルではない、無限だ。
センパイ堀内 『やまのかいしゃ』スズキコージ・作/片山健・絵/架空社)の他にもう1冊、衝撃をうけた絵本を持ってきました。それが、長新太さんの『ちへいせんのみえるところ』(長新太・作/ビリケン出版)です。もし世の中に「絵本の教科書」というものがあるならば、ぼくはこれだと思います。
センパイ堀内 ストーリーはありません。シンプルな言葉と絵で構成されています。でもぼくはシンプルではなく「無限だ」と思ったんです。
これが絵本として成立するのであれば、絵本の可能性というのは無限に広がっているんじゃないかと。
それでプロレスの本をやめて、絵本の編集者になりました。
絵本をとりまく世界が、総合格闘技に
センパイ堀内 今回、講義の名前を「絵本という名の闘技場」としたのには、2つの理由があります。ひとつは、絵本を取り巻く世界が「総合格闘技のようになっている」と感じたからです。総合格闘技をご存知でしょうか? パンチ、キック、寝技、なんでもありの格闘技です。
たとえばパンチのスペシャリスト、キックのスペシャリストが総合格闘技のリングでたたかうように、詩人、保育士、学者、評論家、ジャーナリスト、お笑い芸人、写真家、アニメーター、料理家……だれでも自分の得意とするものをひっさげて、絵本の世界でたたかうことができるようになりました。
あらゆることが絵本の入り口になります。絵本作家になるつもりはなかった人間が、ふとした瞬間、すっと絵本の世界に入ってくるのです。絵本の可能性、どんどん広がっていますよね。
もうひとつの理由は、絵本をつくる人間がたたかっているものがあると思うからです。それは、世間です。絵本というと”清く正しく、可愛らしくて美しい世界”というイメージがあると思います。絵本の表現の幅は、もっと広くて、混沌としているのに。
清く正しくももちろん大切ですが、ぼくは、絵本はどんな表現も成りたつ世界だと思います。
こんなにすごい絵本の世界をもっと知ってほしい、絵本=清らかなものだという印象を持っている世の中にむかって、たたかいを挑んでいかなければならない。
そういう気持ちで日々、絵本をつくっています。
では、どんな絵本で世間にたたかいを挑んでいるのか? 私が担当した絵本の紹介をしてみたいと思います。
センパイ堀内が担当した世間にたたかいを挑んでいる絵本のひとつ『はしるチンチン』(しりあがり寿・作・絵/岩崎書店)
くだらないクリスマスの絵本が、ない!
センパイ堀内 絵本編集者になってから「くだらないもの、意味のないものをつくりたい」と思ってやってきました。そんなとき、絵本作家の高畠那生さんとこんな話をしたんです。
「クリスマスの絵本って、いい話ばかりですよね」
「みんなキラキラしてますよね」
それで高畠那生さんと「じゃあちょっと一発、くだらないクリスマス絵本をつくりましょう!」と約束しました。
タイトルは、『クリスマスのきせき』。キラキラしたタイトルですね。しかし、表紙ではすでに、何かがはじまろうとしているのがうかがえます。
一見オシャレでかわいい表紙ですが、このペンギンの顏を見てください。たくらんでます
たくらんでますよね?
<あらすじ>
ペンギンたちが、雪を見たことがない七面鳥に、雪景色をプレゼントしようとしています。しかし、雪をつめた木箱が崖から落下してしまいます!
あら〜〜
しかし、ペンギンたちはあきらめずに雪を運びます。だって、七面鳥が待っていますからね。このペンギンたち、意外といい奴なんです。
色々あって、雪がすっかりまんまるになりました。
数々の奇跡が起こります
さらに色々あって、大きな雪だるまにーっ!!
ーーっ!! 未だかつて、こんな文章(?)の絵本があったでしょうか
こうして七面鳥とペンギンたちの、クリスマスパーティーがはじまります。小さな奇跡が重なり、最後には大きな奇跡が起こるお話です!
センパイ堀内 とにかくキラキラとしたクリスマス絵本のイメージを、くだらない力でぶちこわしたいと思いました。でも、この絵本のアイデアを考えてもらうのには、ものすごく時間がかかりました。何回もダミー絵本(絵本の下書きのようなもの)を書き直してもらい、3年かけてやっと納得のいくものができました。ところが、今度は会社から刊行の許可が出なかったのです……。
それで、高畠さんとふたりで必死に考えたのが、奇跡の瞬間を描いたこのシーンです。この見開きのラフ画を見た瞬間、いける! と思いました。
渾身のスローモーション。頭の中で”ふぁふぁふぁふぁ”などお好きな効果音をつけてお楽しみください
センパイ堀内 後にも先にもこれ以上にばかばかしくて笑えるクリスマス絵本を知りませんが、とても好きな1冊です。こんな風にくだらないものを大人が一生懸命子どもに届けるのが大事だと、本気で信じています。
「くだらない」はちがう世界へ連れていってくれる
センパイ堀内 『クリスマスのきせき』にも大変な時間がかかりましたが、くだらないというのは、手を抜いているということとはまったく違うんです。ぼくは「くだらない」はちがう世界へ連れていってくれる強い力があると思っています。
そういう絵本をどんどんつくりたいと思って、今取り組んでいるのが「お笑いえほん」シリーズです。放送作家の倉本美津留さんに企画の趣旨を相談したら、お笑い芸人を集めてやってみましょう!と言ってくださり、スタートしました。第1作目の『ガムのようせい』を紹介します。
ただごとではない感じがする表紙です
<あらすじ>
男の子がガムをかんでいます。
くちゃくちゃくちゃ、ぺー。
ガムをポイ捨てすると、バーサバーサという羽音がきこえて、ガムのようせいがやってきました。
何もかも濃い
ガムをポイ捨てする男の子と、ガムのようせいの、不思議な交流がつづきます!
鼻につめてみたり
一生懸命ヘラでとってみたり
センパイ堀内 なんでしょうね(笑)。いいんでしょうか、こんな絵本をつくって。
この絵本シリーズでは、監修の倉本美津留さんが一言あとがきをいれてるのですが、読んでみますね。
ガムのようせいは いったい なにが したかったのだろう?
ガムのようせいが なんで やってきたのか、ようく かんがえてみよう。
センパイ堀内 すごいこと書きますよね(笑)。こんな調子のくだらない絵本です。しかし、子どもたちに読むと、びっくりするくらいゲラゲラ大笑いしてくれます。
ガムのようせいは笑い飯さんの漫才が元の絵本ですが、ページ割が上手にできた絵本です。テキスト(絵本の文章)をもらったときに、どのページに割り振るか考えるのがページ割です。A4のペラ1枚で来た原稿を見ながら、絵の川崎タカオさんとふたりで、どのように構成するか考えました。単調すぎても、複雑すぎてもおもしろくなりません。
センパイ堀内 小ネタも忘れません。
センパイ堀内 分かりましたか? ヒントは、男の子が着ているシャツの文字です。
この「お笑いえほん」シリーズはまだこれから刊行が続きます。これからお笑いを絵本でどのように見せるのか、追究していきたいと思っています。
キタガワ ふむふむ…と、ふたたび言いますがこの講義は3時間! 長い!
というわけで、講義の続きは第3弾でお届けします。どうぞお楽しみに。
まだあるのか!?
いつまであるの!?
(次はもっとおもしろくなります!)
センパイ堀内の「絵本の教科書」
岩崎書店の女子社員がタイトルを言ってくれない絵本。子どもの持つエネルギーがほとばしる。子どもはもちろん、お母さんにも読んでほしい感動の1冊。
ありそうでなかった、爆笑クリスマス絵本。ペンギンがとにかくたくさん出てきます。
小学生男子にとにかくウケる絵本! テンポ良く読むのがコツです。
投稿者:キタガワ