老人ホームもイノベーション!?「特別養護老人ホーム ほほえみの園」の取り組み
こんにちは、岩崎書店イノベーション部の元吉です。
2017年12月下旬。
宮崎県にやってきました。
若干肌寒さを感じますが、明らかに東京よりも暖かく感じます。
宮崎ブーゲンビリア空港の目の前にはヤシの木が並んでいて、南国情緒を感じて自然と気持ちが高まります。
ついつい空港近辺で10枚以上も写真を撮ってしまいました。
ちなみにブーゲンビリアとは、トロピカルカラーが印象的な南国の花の名前だそうです。
南国宮崎の老人ホーム
今回は、宮崎県都城市の「特別養護老人ホーム ほほえみの園」におじゃまさせていただきました。
ほほえみの園の運営母体である、社会福祉法人スマイリング・パークの山田一久理事長と、岩崎書店の岩崎夏海社長は、ドラッカー学会のイベントで知り合い、意気投合したそうです。
そんなご縁で、このたび岩崎書店の児童書をほほえみの園に寄贈させていただきました。
老人ホームでの児童書の活用状況について、山田理事長にお話をうかがうというのが今回の主な目的だったのですが…。
宮崎ブーゲンビリア空港からレンタカーを走らせ約1時間で現地に到着。
施設入り口を見て、私が発した第一声は、「きれいだな!」という言葉でした。
私の亡くなった祖母は老人ホームにお世話になっていましたが、その時に私が持っていた老人ホームのイメージは古い、汚い、臭い、という正直あまりいいものではありませんでした。しかし、ほほえみの園は外観からして、私の持っているマイナスイメージをいきなり裏切ってきました。
職員の方にご挨拶した後、きれいで広々としていて、明るい雰囲気の素敵な応接コーナーにご案内いただきました。
その後、理事長室にご案内いただき、山田理事長が笑顔で迎えて下さいました。
老人ホームをなくすための取り組み!?
──あらためて山田理事長と岩崎社長が知り合ったきっかけを教えていただけますか?
長崎県壱岐市に「壱岐のこころ」という老人ホームがあります。「壱岐のこころ」の鬼塚施設長がドラッカー学会の読書会を開催しました。
鬼塚さんから、その読書会で登壇してほしいとの依頼を受けて参加させていただいたのですが、その会に岩崎社長も出席されていて、そこでお目にかかったのが初めてでした。
読書会の最中、老人ホームが生き残る為に老人ホームを如何に良くするかについて議論する時間がありました。
ほとんどの老人ホームが、サービスの質やおもてなし、ホスピタリティーなどの部分を訴えている中で突然、岩崎社長が「あなたたちは間違っている! あなたたちがやるべきなのは老人ホームをなくすことを考えることだろう。」と発言されました。
私を含めて、その言葉に驚きを隠せない参加者一同ですが、岩崎社長は続けます。「そもそも、最初から老人ホームに入りたいと思っている人はいない。あなたたちの話は老人ホームありきでスタートしている。老人ホームをなくすことを考えた時に新しい物が生まれる。その先に本当に必要とされる老人ホームが生まれるはずだ。」と言いました。
私は、その言葉に衝撃を受けました。目からウロコが落ちましたよ。
その言葉が原点となって、今は様々な事業に取り組んでいます。
──具体的に、どのような取組をされていますか?
「老人ホームをなくすためには…。」と考えていくと、出来るだけ健康寿命を長く保ち、元気な状態で楽しく過ごす方法を真剣に考えるようになり、老人ホームという施設だけを考えるのではなく、住みよい地域づくりを考えるようになりました。
地域で毎年開催されているお祭りは年々廃れて来ていました。
そこで、今まで施設で行っていたお祭りを地域のお祭りとして開催するようにして、お金や人や物を地域に投入するようにしました。
施設で使っていた予算を地域で使うことで、地域のお祭りの出し物が増え、花火もたくさん上がるようになり、やがて参加者が増えてきました。
参加者が増えると露天商が増える。そうすると子どもたちも増える。子どもたちが増えると学校の先生方も来るようになりました。
そして様々な相乗効果で地域に活気が戻って来ました。
この様なイノベーションが飛び火し、ある地域からは、我々の法人に対して、是非とも自分たちの地域で事業展開をしてほしいという誘致合戦が始まりました。
事業も拡大しており、新年度には新たに5つの事業がスタート予定となっています。
その結果、お陰様で、ここ4年間で売上が3倍に、そして職員数も3倍(現在約200名)になりました。
──3倍とはすごいですね。老人ホーム施設としての取組はいかがですか?
老人ホームの「コンビニ化」を図りました。
多くの老人ホームは、施設の周囲を取り囲むように壁や柵があり、門があります。そして施設に入る際には受付があり、面会簿に記入しなくては入館が許されません。しかし、ほほえみの園にはそのようなシステムが一切ありません。
かつてはほほえみの園にも、120㎝くらいの柵が周囲を取り囲んでいましたが、その柵を取っ払いました。そして、面会簿を廃止し、自由に出入り出来るようにしました。
柵を取った代わりに、1箇所だった玄関を8箇所に増やしました。
それぞれの玄関の横に駐車場を設け、玄関のすぐ傍に入居者のお部屋があるようなレイアウトにし、コンビニ感覚で気軽に自分のご家族に会いに来られるようにしています。
もちろん24時間面会可能です。
これらは、当たり前の発想だと思いますが、他の老人ホームでは殆ど出来ていません。全国でもうちくらいだと思います。
面会者が気軽に立寄れる仕組みを取り入れた結果、今では延べにすると年間6,000名の面会者が出入りするようになりました。50床の施設なので、50人のお年寄りしかいないのですが、その家族が年間で6,000名訪れる。年間の面会者数では、日本でトップクラスとなっています。
──「コンビニ化」したことで、セキュリティー面の問題はないのでしょうか?
来訪者のチェックを全く行わない訳ではありません。
通常の老人ホームの場合、来訪者自身が面会簿に記入しますが、ほほえみの園の場合は、職員がiPadでチェックをしています。
コンビニに行った際に、いちいちチェックさせられるとしたら、お客さんはそのコンビニには行かなくなると思います。来訪者に負担をかけないことを最優先に考えて、とにかくコンビニのように入りやすい雰囲気、環境作りを心がけています。
もちろんセキュリティー会社も入っています。夜はセンサーによって警備をしていますが、昼間については職員がセキュリティー機能を担っています。
玄関が8箇所になり、どこからでも入ることができるようになりましたが、基本的には、面会者はご自分のご家族が入居している区画の玄関を利用し、それ以外の玄関は使用しません。区画を区切ることで、一般の「家」と同じように、部外者が入りにくい雰囲気を作り出しています。
そして、区画毎に担当職員が配置されていて、職員が訪問者のチェックを行っています。
ほほえみの園では、面会者が立ち寄りやすい環境にする為のアイデアを考案した職員を評価し、年末に表彰する制度も設けているんですよ。
施設内はワクワクする工夫がいっぱい!
お話をうかがった後、山田理事長に施設内を案内していただきました。
ほほえみの園では、先端技術も取り入れています。
キーボードを打つことなく、スタッフの声をテキスト化して報告書を作成しています。
施設の中には、お店が立ち並ぶエリアがあります。
電柱や街灯もあり、本当の「街」のようでした。
床屋さん。
お花屋さん。
駄菓子屋さん。
酒屋さんまでも!
通常の老人ホームでは、職員が入居者に必要な物がないかを確認し、購入してきた物をそのまま入居者に渡しているケースが多いのですが、ほほえみの園では上記で紹介したお店で仕入れて販売をするそうです。
入居者がご家族と一緒に買い物しながら必要な物を入手する。これも健康寿命を長く保ち、元気な状態で楽しく過ごすための取組の一環です。
庭にはすべり台も。
面会に来た子どもたちの滞在時間を長くすることも大きなテーマです。
それには、ほほえみの園を訪問すること自体が楽しみになってもらうことが大切です。
岩崎書店より寄贈させていただいた児童書については、なんと、応接スペースを図書室にリフォームして、そこで展示する予定とのことでした。
図書室にはピアノを置くので、ミニコンサートなどもできたらと考えているそうで、今から完成が楽しみです。
面会者の施設滞在時間を長くするため、そして健康寿命を長く保つためにも図書室は大きな役割を担うことになります。
リフォームはすぐに着手するそうで、そのスピード感にも驚かされました。
デイサービスもお楽しみがいっぱい!
敷地内にあるデイサービスの施設もご案内いただきました。
施設に入ってすぐ、足湯が出迎えてくれました。
気持ちよさそう…。
モニターで一日の予定が紹介されています。
最新のリハビリ設備も充実。
映画館。
こだわりの音響設備が充実しているカラオケルーム。
無駄な会議を無くす!
ほほえみの園では、職員会議の方法についても工夫しているそうです。
議題毎に担当者を決め、担当者が会議までに、あらかじめ結論を用意しておく。会議はその報告と情報共有の場として活用しています。
声をテキストデータにするシステムを利用し、リアルタイムで議事録を作成しています。
議事録を作成するための時間は必要ありません。
おわりに
ほほえみの園を訪問した当初の目的は、寄贈した児童書が老人ホームでどのように活用されているかをうかがうことでしたが、私が考えていた以上に、山田理事長のお考えや、施設の取り組みなど、とても内容の濃いお話をうかがうことができました。
新しい考えを取り入れ、イノベーションを実践している山田理事長のバイタリティーとパワー、そして思いついたら即行動! というスタンスがとても刺激になりました。
ほほえみの園には、「老人ホームをなくすためには…。」というコンセプトがあります。その明確なコンセプトの元で業務改善に取り組んでいることがイノベーションの成功に繋がっているのだと思います。
介護の世界と出版界。ジャンルこそ違いますが、私もコンセプトをしっかり考えて、イノベーションに取り組んでいきたいと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
投稿者:元吉