『繕い屋の娘 カヤ』の舞台は神様を身近に感じる場所だった 〜作者曄田先生と宇和島巡り〜
こんにちは。岩崎書店ブログ管理人の大塚です。
昨年の12月に発売された『繕い屋の娘 カヤ』。
今回はこちらの作品の舞台となった作者の曄田依子先生の故郷、愛媛県宇和島市にお邪魔してきました!
『繕い屋の娘 カヤ』は両親のいない10歳の少女カヤと狛犬ミスマルが神様の危機を救うという冒険物語です。作品の挿絵を見ていただいてもわかるようにとても神秘的で子どもの頃に感じる神様の気配を思い起こさせてくれます。
文章だけでなく全ての絵も曄田先生が描かれています。
章ごとにテーマカラーがあり数字を絵で描かれています!とても凝った作りです。
ジャパニーズファンタジーカヤの世界が現実にあったとは……実際にこの目で見てみたい!ということで、宇和島を巡り、ミスマルや一宮さまに会いにいってきました。
そして今回は特別に作者である曄田先生にご案内いただきました。
曄田 依子(ようだ よりこ)
1980年、愛媛県宇和島市生まれ。武蔵野美術大学油絵科卒。画家。イラストレーター。現代アジアに混在する華やかな伝統を、現代の視線を取り混ぜて視覚化する。個展、グループ展やアートフェア出品等、国内外で活動中。住吉大社より御祓講獅子意匠預を委嘱、獅子舞頭意匠や祭事に関わる物のアートディレクションを行う。
公式HP About | YORIKO YOUDA workbook
繕い屋のカヤ特設ページ 繕い屋の娘カヤ | 曄田依子 | Yoriko Youda
『繕い屋の娘 カヤ』は作者の曄田依子先生の故郷である愛媛県宇和島市が舞台となっています。
宇和島市は、人口約7万7千人の愛媛県西南部に位置する街で、面積のうち森林が70.9%、田畑が17.3%を占めるとても自然豊かなところです。
作中に出てくる「八つ鹿」「一宮さま」といった我々にとっては新鮮な言葉も、実際に宇和島で古くから親しまれているのです。
宇和津彦神社(一宮様)の絵馬
一宮(いっく)様に会いにいく
物語の中で重要な舞台となっている神社はこちらの宇和津彦神社がモデルとなっています。曄田先生にとって小学生の頃に毎日お友達と過ごした思い出深い場所であり、実際に地元の方からも「一宮様(いっくさま)」と呼ばれ古くから愛されてきました。ミスマルとカヤが出会ったのもこの神社でしたね。
宇和津彦神社は初代宇和島藩主・伊達秀宗による城下の造成で、藩の一の宮と定められた由緒ある神社で 秋の例祭には牛鬼や八ツ鹿踊りで賑わいます。
物語の中でも「牛鬼」と「八つ鹿」が登場します!
お友達と毎日座っておしゃべりをしていた階段
ミスマルは上の狛犬の体と下の狛犬の顔をイメージして書かれました。
宇和津彦神社のお参りの方法はとても珍しく手を併せた後にお社をぐるりと周りその場で二度参りをします。
そしてなんとこのお社の周りの風景がカヤの物語のインスピレーションとなったそうです。
早速お社の周りを一周回ってみます!
曄田先生の表情を見ていると、本当にこちらの神社を大切に想っていることが伝わってきます。
森に続く道から祝の森の入り口を連想した分かれ道
苔生した空間がいつも神様の世界に入っているような気持ちになると仰っていました
物語では鈴がオチてくるシーンがあるのですが、なんと!へこんでいます!これにはびっくり!
四ノ関のバクのモデルになった彫刻
宇和津彦神社以外にも八つ鹿のテーブルの元となった岩場にもご案内いただきました
他にも曄田先生のご実家がカヤの家のモデルであったり、宇和島市の大浦のお墓から見える景色を参考にしたり、宇和島市に実際にある「祝の森」という地名が出てきたりと、宇和島の思い出の場所がたくさん盛り込まれています。
設定資料↓
神様が身近にいた子ども時代
曄田先生はこの作品で物語を書くことに初めて挑戦されています。執筆中の苦労や宇和島を題材とした理由など聞いてみました。
──なぜご自身の故郷を題材にしましたか?
実は最初は壮大なSFといった他のストーリーを考えていました。しかしどうしても途中からアイディアが枯渇してしまい困っていました。そういった中で編集の方に「自分の人生をベースにすれば、必ず誰でも一本は小説が書ける」という言葉をもらったので故郷を舞台にしてみました。そうしたら迷いなく書き進められました。
── 宇和島の伝統や文化が作品に多く出てきますが、小さい頃から詳しかったですか?
小さいときは全く何も考えていなかったです(笑)。むしろ宇和島に寂しいイメージを持っていて、空と風と山しかなく子ども心には全然面白くなかったです。早く街に行きたいと思っていました。しかし作品を書くにあたって土地のことや文化を調べ、宇和島をもう一度見つめ直していくと、こんなにカラフルで楽しいところなんだって初めて気づきがありました。
── カラフルというのは?
少女や一匹の犬の気持ちでもう一度宇和島を見てみると、虫もいて鳥もいて山の中の花も綺麗で沢山の生命を感じられたということです。
── 宇和島の好きなところは?
宇和津彦神社は特に好きです。お社の裏の苔生した道がいつも神様の世界に入っているような気がしていました。
── 小さい頃から神様との距離が近かったんですね。それは宇和島ならではかもしれませんね。
体育のマラソンコースで「山の神様が折帰し地点」と言っていたのを思い出しました。日常生活の身近なところに神様がいましたね。
── その他にも物語と繋がっている思い出はありますか?
カヤが持ち歩いているイチョウの葉の紅茶は母が昔テレビを参考に作ってくれたんです。しかし大失敗して口にはいらなかった。どんな味だったんだろうと今でも思います。あとは母が薬剤師で父が建築家なのでカヤの両親の設定のイメージのもとになっています。
── 薬草で薬を作っていたお母さんと繕い屋のお父さんですね。ズバリ『繕い屋の娘 カヤ』の読みどころは?
カヤが自分自身の嫌いなところを吐き出すところです。一番かっこ悪くて見つめたくない自分を、言語化してミスマルに全部吐き出しちゃうシーンですね。
── カヤはずっと1人で寂しい気持ちを溜め込んでいたわけですよね
粛々と毎日を営んでいる中で、それでも生きているだけで幸せと思ってはいましたが、でもそうじゃないんですよね。カヤが本当の自分と向き合うターニングポイントとなるところが一番力を入れて書いたところです。かっこわるくていいんだと自分で認めて、かっこわるい姿を見せられる人を見つける。そうした行為を逃げずに行ってほしいという事を一番伝えたかったのかもしれません。
── 子どもの頃は意外とプライド高いものなんですよね
そうなんです。友達同士のコミュニティーで見栄をはったり自分に嘘をついたり、そのまま大人になってしまうこともあるので空気は読まなくていいし好きなものは好きで嫌いなものは嫌いでいいんです。
── 故郷の子どもたちが『繕い屋の娘 カヤ』を読んでくれています。お気持ちはいかがですか?
私が面白いと思って書いたことを面白いと言ってもらえるのが一番嬉しいです。この作品を書いて私自身もファンタジーの面白さを教えてもらったので子どもたちにもそれを伝えたいですね。
宇和島の本屋さんでも好評発売中
神社の後は宇和島の本屋さんに訪問しました!みなさま大変素敵な棚を作っていただいています。
「小さい頃から通っていた本屋さんに自分の本が置かれるなんて…」と曄田先生も感無量のご様子でした。暖かくお迎えいただきありがとうございました。
明屋書店 宇和島明倫店さま
宇和島ケーブルテレビさんにも出演しました!
TSUTAYA フジグラン北宇和島店さま
宮脇書店 宇和島店さま
手書きの絵のPOP感動です
明屋書店の担当の方に頂いた手紙を読んでいる曄田先生
今回は『繕い屋の娘 カヤ』の舞台となっている愛媛県宇和島市に作者の曄田依子先生と訪問してきました。
カヤの気持ちになって宇和島を歩いていると物語の中で感じたワクワクした気持ちや神秘的な気持ちを感じとることができました。
曄田先生が幼少期に体験した宇和島での生活がカヤの物語を作っているのだとしみじみ感じ、またゆっくり物語を読みながら街歩きをしたいと思いました。
それでは案内をしてくださった曄田先生、宇和島の書店のみなさま、そして最後までお読み頂いたみなさまありがとうございました。
『繕い屋の娘 カヤ』特設サイト↓
投稿者:大塚芙美恵