絵がめちゃくちゃ上手くなるってどうすればいいの!? 世界で活躍するイラストレーター木内達朗さんに聞いてみました
こんにちは。岩崎書店ブログ管理人の大塚芙美恵です。
いきなりですが、みなさんはめちゃくちゃ上手い絵描きさんに出会ったことはありますか?
絵本『いきもの特急カール』表紙絵
上の絵は、岩崎書店から今年の1月に刊行されたばかりの絵本『いきもの特急カール』の表紙です。これを描かれている方が、日本でも一番といえるくらい、絵がめちゃくちゃ上手い人、イラストレーターの木内達朗さんです。
木内さんは、日本はもちろん、海外でも、第一線でご活躍されている、有名なイラストレーターです。最も有名なのは書籍の表紙で、あの半沢直樹シリーズなんかも手がけていらっしゃいます。
[これを描かれたのが木内達朗さんです]
木内さんの描かれる絵は、現代的な鋭さを特徴としながら、同時にどこか懐かしさも感じさせるという独特な雰囲気を持ち、多くの人の心を引きつけます。
そんな木内さんの絵は、国内のみならず、海外にも多くのファンがいます。
例えば日本人として初めて採用された、イギリスのロイヤルメールのクリスマス切手も手がけていらっしゃいます。これはなんと、2億枚も刷られたそうです。
また、2007年のクリスマス、スターバックスのホリデーキャンペーンに採用され、木内さんの描いた広告やパッケージが全世界の街にあふれました。
New York City 57th St.+7th Ave.
このように、世界で活躍し続けている木内さんは、なんと国際基督教大学で生物を勉強されていたという異色の経歴の持ち主。
木内さんが、どのようにして絵の世界に入ったのか、そしてどのようにして絵がめちゃくちゃ上手くなったのか、文化の垣根を越えたグローバルな絵をどのようにして描いているのかを尋ねるべく、岩崎書店CEOの岩崎夏海、編集パートナーの須藤雅世とともに、私は今回、特別にアトリエにお邪魔させていただき、お話を伺ってきました!
木内達朗 きうちたつろう
1966年、東京都生まれ。
国際基督教大学教養学部生物科卒業後、渡米。Art Center College of Design卒業。
イギリスRoyal Mailのクリスマス切手、ニューヨーク・タイムズのイラストレーション、ペンギン・ブックスの書籍装画など国際的に活動。ボローニャ国際絵本原画展、アメリカン・イラストレーション年鑑等入選。2005年講談社出版文化賞さしえ賞受賞。
アトリエにお邪魔しました
(左:岩崎書店CEO岩崎夏海、中:編集パートナー須藤雅世 右:木内達朗さん)
素敵ながらくた(失礼!)が沢山! このような立体物を集めるのがご趣味だそうで、これらをヒントにディテールを描かれることもあるそうです。
石膏デッサンが嫌いで、美大には行かなかった
岩崎書店CEO 岩崎夏海(以下 岩) 今回は3/11に行われるイベント「本における絵の価値ってどれほどなんですかね? を考え、語る1時間半 木内達朗 × 及川賢治(100% ORANGE)」に先駆けて、木内さんの絵について深掘りをしていこうと思っています。よろしくお願いします。
3/11に刊行記念イベントが開催されます↓
木内達朗さん(以下 木)よろしくお願いします。
岩 木内さんの絵は本当にめちゃくちゃ上手く、魅力的で、人の心をひきつける力があると思うのですが、小さいころから絵は得意でしたか?
木 保育園の頃から絵を描くのが好きで、小学生のときの作品がコンクールに出たこともありました。絵画スクールには小学生から中学1年まで通っていましたね。図工や美術の授業は得意で好きでした。
岩 絵が好きな子ども時代を過ごされていたとのことですが、その後すぐに絵の道に入られたわけではないんですよね?
木 そうですね。まず絵の道に進む選択肢として、美術系の高校に入るというのがありました。しかし、そちらの道には進まずICU高校(国際基督教大学高等学校)に入学しました。英語が好きだったのと、僕は天邪鬼なので、人と違うところに行きたいなと(笑)。偏差値の高い高校なので、まぐれで入れたということもありますが。
岩 いえいえ。そんなことはないと思います。
木 その後、大学のときにまた美大に行くという選択肢もありましたが、受験に必要な石膏デッサンがこれまたつまらなくて(笑)。これは嫌だなと思って。
岩 わかります。ぼくもデッサンは苦手でした。幸い受験にはデッサンがなかったので助かりましたが(大塚注:岩崎はなぜか美大出身なのです)。
木 それで、ICUという大学はストレートでは上がれないのですが、高校の成績がよければ推薦が受けられるので、受験するのも面倒くさいし、日々の勉強を頑張って、そのまま上の学校に進学しました。
岩 そうしてICUでは生物を専攻されるわけですが、なぜ生物を学ぼうと思ったんですか?
木 子供の頃に絵と同じくらい生き物が好きだったからです。特にどじょうとかザリガニとかクワガタが好きですね。
岩 そうだったんですね。その後は、どのようにしてイラストレーターへの道に進まれたのでしょうか?
木 実は、大学で生物の勉強をしながらも、絵が好きだという意識はずっと持っていました。授業で顕微鏡を見ながらスケッチすることもあり、そんなときに自覚しましたね。そうした中で、大学3年生のときくらいに、自分はどうも生物の方の才能はそれほどないなと感じました。というのも、根っからのビジュアル人間である自分には、記号でできている化学式がピンとこなかったからです。そういった理由で、当初目指していた大学院進学を辞めようと思うようになりました。でも会社に入るのは嫌ですし、なんとか就職しない方法はないかなと考えていたんです。
岩 そうだったんですね。
木 そもそも、会社に入るということ自体が自分に合っていないと感じていたんですね。それで、いわゆる一般企業に就職するというのは考えていませんでした。そういったときに、自分には絵があるじゃないかと、ふと思い出したんですよね。石膏デッサンが嫌いで受験はしませんでしたが、それだけが絵描きへの道じゃないと。そこで、海外に目を向けてみようかなと思い、アメリカのカリフォルニア州にある「アートセンター・カレッジ・オブ・デザイン」という美術大学に入学しました。88年から91年までいました。
岩 しかし渡米するというのは、僕からしてみればとてもハードルが高いような気がしますが、どうだったんですか? それを選択できたのは、やっぱりICUに行かれていたのが良かったのでしょうか。
木 そうですね。留学はやっぱりハードルはありますけど、ICUには帰国子女も沢山いたので、なるべくそういう人たちと接して、英語を使うようにしていましたね。
また、ICUは成績がGPA制度であったり、アメリカの大学のシステムと似ているところもあったので、そういった点は違和感なく入り込めました。
※GPA(Grade Point Average)とは、各科目の成績から特定の方式によって算出された学生の成成績評価方式のこと。 欧米の大学や高校などで一般的に使われている
アメリカの美術大学アートセンター・カレッジ・オブ・デザイン
岩 アートセンター・カレッジ・オブ・デザインでは、どのような勉強をされていたんですか?
木 イラストレーションを専攻していたんですが、前半はヌードのドローイングや画材の技法などの基礎を学びました。後半は、実際に活躍しているアートディレクターが教えに来て、実践的な絵の課題が出されたりしていました。課題に対して、生徒たちがアイディアを出してディスカッションして仕上げるという流れなので、とてもプロ向きの授業でしたね。
岩 そこは、どのぐらいのレベルの方が通われる学校なんですか?
木 アートセンター・カレッジ・オブ・デザインは私立の美大ではありますが、既に他の美大を卒業している人や、一度就職してから来たりしている人が多く、大学院の様なポジションでした。平均年齢も高く、もとからスキルがある人が集まっていました。
岩 まさにプロ養成学校だったんですね。そういった環境の中で、木内さんのプロへの道というものも定まっていったんですね。
木 そうですね。ぼくの場合は日本で私立大学を出た上に来ているので、親にずいぶん学費も出してもらっちゃって、もうここから後戻りはできないなと、命をかけてやるしかないという感じでした。
岩 それで、卒業後は日本に戻っていらっしゃいましたね。アメリカに残ることは考えられなかったんですか?
木 それはぼくも考えましたが、まずビザの問題があるんですよね。そこにいたくても簡単にはいられない状況でした。周りの人と一緒にアメリカでやっていきたいという気持ちは強くありましたが、学んできたことを活かして日本で仕事ができたらそれはそれで面白いかなとも思いました。
岩 そうして日本での活動をスタートされるわけですが、最初からフリーのイラストレーターとして活動されていたんですよね?
木 そうです。まあ、ただ実家に戻ったという言い方もできますけどね(笑)
岩 (笑)。そのときは、どうやって仕事を獲得されていたんですか? 営業はどのようにされたのでしょうか?
木 それは、帰国する前からそれなりに営業していたんですよね。たとえば出版社を回って、絵を見てもらったりしていました。そうした中で、ぼちぼち仕事もしていたんです。美大卒業間近に一番最初にもらった仕事が『SONG OF THE BUFFALO BOY』という本の表紙です。その次には、『THE LOTUS SEED』という絵本の挿絵の仕事もしました。これは、実は25万部も売れたんです。
『THE LOTUS SEED』は世界で25万部以上販売しています
岩 すごい! ロケットスタートですね。
木 絵本が売れたのは運もありますけど、仕事の取り方は大学でも習っていたんです。最後の方に売り込み方を教えてくれるクラスもあって、アートディレクターが生徒のポートフォリオを見てくれたりしていました。また、絵本のエージェントにもコンタクトをとって、そこで契約も交わしていたんです。
岩 なるほど、その学校では単にイラストの技術だけではなく、イラストレーターとして生きていくための方法も教えてくれるんですね。
木 そうですね。
岩 日本だとあんまりそういうことないですよね。
木 ぼくは日本の美大には行ってませんが、聞く限りそういうものはほとんど教えてもらえないみたいですね。
Lotus Seed (Reading Rainbow Books)
- 作者: Sherry Garland,Tatsuro Kiuchi
- 出版社/メーカー: HMH Books for Young Readers
- 発売日: 1993/04/01
- メディア: ハードカバー
- この商品を含むブログを見る
木内さんの絵は「版ズレ」がめちゃくちゃかっこいい。
岩 木内さんの絵といえば、今はデジタルというイメージがありますが、最初は油絵だったんですね。油絵からデジタルに移行したきっかけや時期を教えてください。
木 アートセンター・カレッジ・オブ・デザインの卒業間近のクラスで、「デスクトップデザイン」というマッキントッシュを使った授業を受けたことがきっかけです。ですから、91年くらいですかね。そこで、それまで僕が触れてきたコンピューターというのは、昔の緑の文字がずらずらっと出てくるPC98的なやつだけだったのが、その授業で初めてマウスで直感的に描くということを体験して、これが面白かったんですね。とても衝撃を受けました。その影響で、帰国後にMacを買ったんですよ。高いやつは買えなくて、Centrisというやつだったんですけど。ただ、すぐにそれで描いたものを納品できたわけではなかったですね。なので、依然として油絵で描きながら、コンピューターは下描き用に使っていました。それだけでも、色を見たりするのにだいぶ便利だったんです。当時は、まだ若いヴァージョンの――1.2とかだったんじゃないかな、のPainterを使っていましたね。それで、できることの幅がどんどん広がっていきました。そういう意味では、コンピューターも最初から仕事に使っていたということができると思います。
岩 それは、設計図の様な感じですか?
木 はい。最初はそうだったんですが、ヴァージョンも上がってできることの範囲も広がり、そこで色々といじっている中で、今の絵のタッチの原型になるようなものが出来てきたんです。だから、そこからこれを使って営業してみようと、出版社などに作品を送り、徐々にデジタルに移行していきました。そのタイミングが、ちょうど2000年くらいですね。
岩 なるほど。僕が木内さんの存在を初めて知ったのは、何かは忘れてしまったんですが、イラストではなくコンピューターの雑誌のインタビューだったんですね。その雑誌で、重松清さんの『きよしこ』の表紙絵を拝見したんです。その絵のクレヨンの様なテクスチャーと、版ズレを再現したような技法が、とても魅力的だと感じました。というのも、多くのコンピューターの絵は、線をきっちり引いていて、境目がはっきりしている、いわゆるコンピューターらしさが前面に出ていました。しかし木内さんの絵は、コンピューターくささが消えていて、しかしそういった中でも、どこかにコピペした様な味わいも残されているんですよね。だから、コンピューターと手書きの境目みたいなものを哲学的に模索されているのかなと、強い興味を覚えたんですよね。
木 哲学的かどうかはわからないですけど、恐らくデジタルで版画のようなもの再現したのは、僕が一番早かったと思います。
岩 やはり「版ズレ」も面白いぞ、って美意識をお持ちだったんですよね?
木 そうですね。昔の面子やマッチ箱のグラフィックなどが、とても好きなので。ただ、コンピューターで判ズレを作ると、ただずらしただけでははきれいにずれちゃって。ずれた部分が等間隔でも、やっぱり面白くないんですよね。だから、ずらす判はわざわざ新しく描いたりしています(笑)
岩 それはすごい! そもそも版ズレに目をつけるだけでもすごいと思いますが、どうすれば版ズレが美しく見えるかという、いうなれば「判ズレ学」というものも深めてらっしゃったんですね。見ているだけではそこまでは気づきませんでした。それから、このクレヨンみたいなテクスチャーはどのようにお描きになっているんですか?
木 それは、おそらく色鉛筆などで描いたものをスキャンしています。
岩 そうなんですね。もしかしたらそうかもなと思ったんですが、そこまで面倒くさいことをするかな? とも思っていました(笑)。そういう意味では、手で描くよりかえって面倒くさいことをされていて、面白いですよね。デジタルになって、普通は便利になるところが、逆に手間がかかるようになったと。
木 たしかに(笑)。
お話しの途中ですが、ここでちょっと、木内さんに見せていただいた、いろいろな作品をご紹介します!
アメリカNEW YORK TIMES MAGAZINE より 2018年2月4日発売号
オメガのライフタイムマガジンの付録より『いきもの特急 カール』を思わせるモロッコの電車
2007年スターバックス・ホリデーキャンペーン
アメリカのゴルフダイジェスト。オーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブを描かれています。
いよいよ核心……木内さんにとって、絵の上手さとは? また、上手い絵と良い絵の違いとは?
岩 木内さんのTwitter(木内達朗@東京目印 (@kiuchitatsuro) | Twitter)を拝見していると、どこかに面白い絵はないか、常に収集されている印象です。
木 そうですね。Tumblrなどを見て、自分が気になったものをストックしています。アイディアに詰まったときにそういうのをザーっとみると、インスピレーションが湧き上がってきますよね。
岩 時々、木内さんがこの先も描かないような絵に対しても、面白がっていらっしゃいますよね?
木 はい。自分の絵と違っていても、絵によっては何か好きな部分があって、自分にはできない憧れみたいなものがあるんですよね。3/11のトークイベントでご一緒する及川賢治(100% ORANGE)さんなんかもそうで、すごい憧れなんですけど、自分にはとてもじゃないけど描けない絵だな、という意味ですごく好きです。
岩 今お話に出た及川賢治(100% ORANGE)さんは、実は木内さんのご提案で今回のトークイベントのゲストとしてご登壇いただくことになったのですが、先ほども言ったように木内さんの絵とはだいぶコンセプトが違うような気がしたのですが、どこに惹かれたのでしょうか?
木 それは、及川さんのマンガを読んでいると、考えていることが変だなと(笑)。ぼくも変なものが好きなので、そこが自分に通じる部分があると思ったんでしょうね。あと、こういうと失礼かも分からないですけど、実は絵もすごいお上手だと思ってるんです。
岩 なるほど。僕もまさに「上手い絵とは何か?」ということをよく考えているんで、今日はそこのところを伺いたかったというのもあるのですが、まずぼくから言わせていただくと、一つ思うのは「バランスが整っている」ということなんですよね。木内さんの絵にも及川さんの絵にも、その他のあらゆる絵描きさんの絵には必ず「バランス」というのがあって、それが整っているかいないかで、上手いか下手か決まるのではと思っています。木内さんはどう思われますか?
木 そうですね、それでいうと、さっき及川さんのことを「上手い」と言いましたが、よくよく考えると、この言葉はちょっと違うかもしれないですね。「上手い」というと、一般的には、デッサンが上手いといった、技巧的な部分を指すかと思います。しかし僕は、それを上手いとは言ってないですね。それよりは、「いい絵」とか「面白い」絵とか、そういうのを「上手い絵」と言っているように思います。でも、じゃあ「いい絵」「面白い絵」がどういうものかと聞かれると、それを説明するのは難しい。
岩 木内さんの場合は、それを言語化しにくいから、Tumblerで集めていらっしゃるのでしょうか。
木 それもあるかもしれませんね。
岩 それでいうと、ぼくは作家なのであえて言語化してしまうのですが(笑)、木内さんのTumblerを拝見していると、「コントロール」と「破綻」を上手にミックスされている絵を収集されているように感じます。絵って、完全にコントロールしてしまうと、あまり面白くないんですけど、けど、破綻しすぎていてもだめで、だから、これもバランスといえるかも分かりませんが、コントロールと破綻の両方あるのがだいじなのではないかと。
木 なるほど、そうかもしれません。
岩 ぼくから見ると、木内さんの絵も、やっぱりコントロールと破綻が同居されていて、むしろその境目の上を歩いているという面白さを感じます。他の人と比べると、チャレンジ精神が旺盛なので、破綻の方に比重が乗っかっているかな、と。それでいてバランスが崩れないから、ぼくは失礼ながら、「この人はめちゃくちゃ上手い」と感じるんですよね。
木 上手いかどうかは分かりませんが、比重でいうと、どちらかというと破綻というか、チェレンジする方に行きたい気持ちはありますよね。
岩 非常に「前のめり」なものを感じます。その意味で、今回の『いきもの特急カール』も、かなり前のめりに描かれていますよね。
木 そうですね。絵本というのは、特にそういう場であってほしいですよね。商業イラストだと、いろいろ制限される場面も出てくるので。
岩 ぼくは、木内さんが持たれている絵のスキルの高さや、積み上げて来た概念のユニークさを、絵本を通じてある程度まとまった形で残すことができれば、後世の人はその山の上に、また何か建物を築けると思っているんですね。そういった点で、単にビジネスとしてだけではなく、社会事業としても大きな意味があると思っています。だから、今回岩崎書店からこの本を出していただけて、本当にありがたいなと、嬉しく思っています。
木 絵本の面白いところは、息が長く読み継がれるところですよね。それが、他の本にはないことだと思います。
岩 子どもというのは、「分かる」という快感も求めるんですけど、簡単に分かっちゃうと今度は逆にすぐに飽きてしまうんで、適度に「分からない」という部分も残す必要があるんですよね。その意味で、分かりそうで分からないというものを作ろうとするから、絵本というのは長く読まれるのでないかと考えています。それでいうと、木内さんの描かれたこの『いきもの特急カール』にも、そういう要素が宿っていますよね。これは伏線かな、という思わせぶりなシーンがありながら、それをあえて回収しないという。だから、周りの大人に読んでもらうと、ちょっと不思議がられます。でも、ぼくはそれでいいと思うんです。これはおそらく意図して作られた「分からない」ではないかかとは思いますが、そういう「破綻」がアクシデンタルに紛れ込んでくることが、絵本にとっては大事かなと。
木 そういう偶発性は、絵だけではなく、絵本にも大事ですよね。
絵はスタンディングで描きます
なんと木内さんは、絵を立ったままお描きになるということで、実際に描いている様子を見せていただきました。
アンティークの製図台を机代わりに使用されています
下の写真は、『いきもの特急カール』に出てくる果物の絵です。レイヤーを乗算でいくつも重ねられて描かれています。そのため、特に濃度の違いを描かず、ベタの絵を重ねていかれるそうです。
水性絵の具を再現したブラシを使用し、ニュアンスを加えていくそうです。
この果実はカールのごはんとして出てきます!
さいごに
今回は、木内達朗さんのアトリエにお邪魔して、木内さんのめちゃくちゃ上手い絵の魅力や、少し変わった経歴についてお話を伺ってきました。
常に「いい絵、面白い絵」を描けるように、自分とは違ったテイストの絵からもヒントを得ようとされている木内さん。
3/11のイベントでも及川賢治(100% ORANGE)さんと対面をしながら、「絵の価値」についてじっくりお話をしていただきます。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
投稿者:大塚芙美恵