選ばれる映像授業とは? 東進ハイスクールに聞いてみた
みなさんは映像授業をご存知でしょうか?
MOOCなどといった、インターネットを通じて、映像授業を受講できるシステムが現代には沢山あります。
MOOCとは……インターネット上で誰もが無料で授業を受講できるシステム
JMOOC -無料で学べる日本最大のオンライン大学講座(MOOC)
しかし、大学の授業などを無料で受講できる、画期的なシステムでありながら、現在にいたるまで、さほど普及していない印象があります。
一方で同じ映像授業でも、東進ハイスクール、東進衛星予備校をご存知の方は多くいらっしゃるのではないでしょうか?全国に約1,100校舎、12万人の生徒が通っています。
個性的な講師の方々が出演するCMをご覧になった方も多いのではないでしょうか?
そこで今回は、「東進の映像授業」はなぜ選ばれるのか、運営元である株式会社ナガセの広報部長市村様にお話を伺いました。
株式会社ナガセ 広報部長市村様
講師の数が足りない!? 映像授業にいたるまで
──まず、東進ハイスクール、東進衛星予備校のシステムを教えてください。
大きな特徴は、日本を代表する一流講師陣が授業を担当している点です。「いつでもどこでも誰にでも最新にして最高の教育を」という目標を掲げてスタートした東進は、いち早く授業を映像化し、全国どこの地域にいても、生徒さんがいつでも自分専用の個別のブースで受講できるシステムをつくりました。通常なら90分の授業を1.5倍速で受講できるのは効果的です。授業中の重要なところ、またわからないところがあれば何度でも戻して見直したり、映像を止めて板書を映したりできるのも効果的です。受講後は確認テストを行い、しっかりと理解したことを確認してから次の授業に進むという仕組みです。それでもわからない点は、校舎に常駐している担任や担任助手に相談したり、フリーダイヤルで質問することができます。
(東進ハイスクール・・・首都圏直営校舎、東進衛星予備校・・・フランチャイズ校)
── 東進さんは、映像授業を1991年に開始されています。スタートまでの経緯を教えてください。
社長の永瀬昭幸が、1971年に自宅のアパートで塾をスタートさせたのがはじまりです。その後「東進スクール」という名称で西東京地域を中心に十数校を展開する、小中学生を対象とした進学塾に発展していきました。1985年には大学受験部門に参入し、現役高校生をターゲットとした「東進ハイスクール」を創設しました。当時現役の高校生が予備校に通うことは珍しいことでしたが、「需要は必ずある」という判断でした。
── 最初から高校生向けの予備校として始まったわけではないんですね!
はい。しかし大学受験部門には、既に駿台予備学校、河合塾、代々木ゼミナールという3大予備校があって、そこに新規参入するのは大変な困難だと思われていました。でも、彼らは浪人生中心の予備校、私どもは小中学生で実績を持つ塾。高校生という新たな市場には私どもにも勝機はあると考えました。
そうは言っても大学受験部門に参入する上で、全国的にはほとんど知名度のない私どもですので、差別化を謳いました。そのキャッチコピーが、「ハッキリ言って講師陣が自慢です!!」。
スカウト部隊も作るなど、とにかく東進は講師を充実させることに相当な力を入れてきたと思います。
── 個性的な講師の方々はCMなどでも有名ですよね。しかしその頃は、まだ映像の授業ではありませんよね?
はい。授業の映像化は、東進ハイスクール創設から7年後に始まります。「ハッキリ言って講師陣が自慢です!!」が評判を呼び、毎年校舎数を増やしていき、5年後にはついに全国展開がはじまりました。そうなってくると、有名人気講師が全ての校舎に出講するのが物理的に困難になってきます。東進ハイスクールの看板を出すからには、講師は一流でなければならない。しかし校舎はどんどん増える。この状況を解決するのが映像化だったのです。
そして1991年に衛星放送をつかった授業配信「サテライブ」を、通常の授業と並行して開始しました。
── はじめは衛星放送だったんですね!
はい。東京にある本部校の授業の様子を衛星放送を使って全国に送り、リアルタイムで各校舎の大きなモニターに映しました。サテライブ授業開始の翌年からは東進衛星予備校もスタートしました。全国の塾・予備校を対象としたフランチャイズ展開です。
当時は「ライブ」と「臨場感」を売りにしていました。
しかし高校生は、浪人生と違って部活や学校行事などで「授業に間に合わない」などということも多く、ライブ放送の途中で教室に入ってくるという状況が日常的にありました。
サテライブ開始から数年が経った頃、このようにやむをえず遅刻したり欠席したりしてしまった高校生に対して、例外的にビデオの貸し出しをはじめました。そうすると、リアルタイムの授業よりも、ビデオの方が人気が出て、衛星ライブ放送の集団で受ける授業から、録画したビデオで個別に受ける授業に移行していきました。
その頃のバックヤードは、レンタルビデオ屋さんのような風景でしたね(笑)。現在はビデオではなく、インターネット回線を使ったVOD(Video On Demand)に視聴方法が変わりました。
── 衛星生放送から、録画したビデオの貸出、インターネット配信に変わっていったんですね。
人の介在が重要
── 今でこそ映像授業はメジャーですが、開設当時の苦労はありましたか?
やはり最初の頃は、苦戦だったと思います。当時は「映像にお金を払う」ということが、あまり一般的ではありませんでした。東進の授業を受けた生徒ならば、むしろ映像の授業を自分のペースで受けられる良さを理解してくれていたのですが、「映像を見ただけで成績が上がるわけない」と思われている親御さんもいらっしゃって、最初はなかなか受け入れられませんでした。
── 当時は講師から直接教わるのが当たり前でしたよね。
そうですね。人気講師は申込と同時に締切になったり。ある予備校では人気講師となると定員が700名という大教室で授業が行われていたこともありました。授業を映像化することによって、より多くの生徒が授業を受けることができるようになりました。しかし、授業を録画することについては、講師からの反発もありました。講師にとっては自分が行っている授業をいくらでも複製されたら困るという権利に関する問題がありましたし、また、講師と言えど万が一にも間違えたことを教えてしまったら、それが永久に残ってしまうという不安もあったと思います。そういった不安を一つ一つクリアして実現にいたりました。
── 逆風の中で、2000年代に入る頃から、売上が伸びてきていると思うのですが、どのようにして世の中に受け入れられてきましたか?
2000年頃から、「本当に学力を伸ばす予備校」を目指して、生徒一人ひとりと向き合い、モチベーションの向上と継続に力を注ぎはじめました。授業を配信するだけが予備校ではなくて、生徒ひとりひとりの夢や志について本気で語り合い、将来どのように社会に貢献していくのか、といったことを一緒に考えていくようになりました。そうすると自分の目標が明確になり、やる気も沸いてきて、生徒の成績が伸びていくのが手に取るようにわかりました。
── モチベーションに着目したきっかけはありましたか?
予備校にただ授業を受けにくるだけならば、わざわざ予備校に行かずに自宅で受講してもいいんです。でも、ずっと自宅だと、一緒に頑張る仲間もいなければ、褒めてくれる人も、怒ってくれる人もいません。そこに人が介在して、一緒に目標に向かってモチベーションを上げていくことが大切なんです。映像の中にいる講師は、解りやすい授業という教材の一部であって、その授業を活かすためにも、目の前で励ましてくれる生身の存在が必要なのだと思います。
── それをうけて具体的にはどういった取り組みをされていますか?
「担任」「担任助手」そして「グループ制」などをとり入れています。
担任は、1対1の合格指導面談を行う中で、大学合格を最終目標とするのではなく、将来の夢やどういった生き方をしたいかといった志についても話をするようにしています。
グループ・ミーティングは5~6人程度の生徒がグループになって、お互いディスカッションをしながら切磋琢磨する取り組みです。自分の夢について語りあったり、1週間の学習計画をグループ全員で共有したりして励まし合っています。
そして、そのグループ・ミーティングを引っ張っていくのが、担任助手です。担任助手は、東進で勉強して合格した大学生なので、東進の活用法や勉強法もよくわかっています。生徒にとってすごく頼りになる存在なんです。
── 生徒同士のコミュニケーションも日常的にあるんですね。
はい。ときには塾内合宿といって、土日に夜通しディスカッションも行っています。
予備校のシステムの崩壊、個性的な講師陣
── 授業を映像化したことによってどのような変化がありましたか?
自分にぴったりの授業を自分のペースで個別に受講できるということが最も大きな変化だったと思います。通常の予備校の授業は週に1回と決まっていて、自分がもっと先に進みたいと思っても、カリキュラム通りに進んでいきます。例えば、高3の生徒が、高1英語を復習したいと思っても、カリキュラムに沿うと1年かかってしまい、受験までにとうてい間に合いませんよね?
しかし映像による授業ならば、今日の続きを明日、そして明後日と毎日受講することもできるので、通常1年かかる授業を1ヶ月でマスターなんてこともできるんです。
また、授業受講後の確認テストで、本当にその授業を理解したかどうか確認しながら進めるところがポイントです。
── 講師に関してどんなところにこだわっていますか?
すべての授業の質を高いまま維持するために、東進では講師のレベルの高さにこだわっています。1番上手な講師が1人いれば良いということではなく、講師の教え方や担当レベルなども考慮して、1教科10人〜20人が在籍しています。皆トップクラスの先生方です。しかし、講師の人数をどんどん増やしていくということはしないので、より素晴らしい講師が出てきたら、入れ替わりとなるのがこの世界です。講師は生徒の学力や合格実績をいかに伸ばしたか、それから生徒の動員数といったところで常に評価されています。
── シビアですね……。
日本全国で、我こそはという講師の方がいらっしゃったらいつでも東進へというスタンスなので、多くの応募があります。主に学校の先生や他の予備校の講師で、書類選考とカメラテスト、面接といった審査があります。かなりの狭き門です。
公式HPから応募できます!気になる方はチェックしてみてください。
2020年大学改革入試にむけて
※2020年大学改革とは
2019年度にセンター試験が廃止され、2020年度より「大学入学共通テスト(仮称)」が開始されます。
センター試験からの大きな変更として、記述式問題の導入と、英語の評価が2技能(読む・書く)から4技能(読む・聞く・話す・書く)で評価することが挙げられます。
── 2020年大学入試改革について何か取り組みはされていますか?
高校の先生方を対象とした夏の教育セミナーを開催しています。高大接続の教育改革に向けて、4年目となる今年は「授業改革」をテーマに、文科省の方々の講演や、高校の先生方によるワークショップなどを展開していきますが、全国12の会場で約5,000人の先生方が参加されています。
制度が大きく変わり、高校の先生方の教え方も改革が迫られる中、東進からは安河内先生が英語4技能を身に付けるための授業のポイントなどの解説も行っています。
── 2020年からの大学入試では、思考力、判断力、表現力が問われる内容に変わっていくと思いますが、何か対策はうたれてますか?
そのためにということではありませんが、一つの例として「トップリーダーと学ぶワークショップ」というイベントを行っています。一流の経営者や研究者など、さまざまな分野においてその道を極められたトップリーダーの方々に先生となっていただきます。
トップリーダーと学ぶワークショップ公式HP↓
トップリーダーと学ぶワークショップ レポートサイト|大学受験の予備校・塾・東進
── 詳しい内容は?
まず、先生であるトップリーダーの方に高校生に対して講演をおこなっていただき、その後お題を頂戴します。そのお題について、生徒同士が数人のグループを作り侃々諤々ディスカッションを行います。その後グループの代表を決めて1分間のプレゼンを行い、最も優秀なプレゼンをしたグループをトップリーダーの先生に選んでいただき表彰という流れです。
── 受け身型のセミナーではなく、参加型の内容なんですね。
そうですね。先生方から頂戴するお題(テーマ)には正解はありません。いや答えはいくつもあると言った方が正しいかもしれません。そのテーマに対して、どれだけ論理的に自分たちの考えをまとめて、表現できるかというところは、まさに2020年からの大学入試で試される力だと思います。
生徒たちは堂々と自分の意見を主張したり、仲間の話に耳を傾けたりと、真面目にディスカッションしています。普通の生活の中でその様な機会は少ないでしょうから、貴重な経験かもしれませんね。
また、会場に来られない方も参加できるように、日本全国に講演を配信し、校舎単位でディスカッションをしています。
── トップリーダーの面々が豪華ですよね。
トップリーダーの方々の話は鳥肌が立つくらい面白いです。しかも講演を聴いて終わりというのではなく、自分たちも参加し、また意見も評価してくれるという点も貴重じゃないでしょうか。
── 新しい入試制度に向けて、予備校の授業は変化していきますか?
前提として、入試制度が変わったとしても、知識の量というのは必要です。どの様な時代であろうと、必要な知識がないとアウトプットはできません。そのためのお手伝いを予備校でもします。しかしこれからはそれに加え、蓄えた知識をどのように筋道をたてて、アウトプットするかという点も教えていかなければならないと思います。そういった意味では、予備校は変わっていかなくてはいけないでしょう。今のスタイルやシステムのままでいいなんて思っていません。
── 最後にこれから映像授業はどう変化していくと思いますか?
映像ならではの工夫をもっとできると思っています。例えば歴史の授業の場合、資料集が映像になって観られるとか、生徒一人ひとりの理解度によって授業のシナリオが変わるとか。さらには、受け身ではなく自ら考え積極的に参加する授業。10年後には想像を超えるような進化を遂げているかもしれません。
高校生向けの授業はもちろんですが、大学生、大人、そして海外でも、「映像を活用して学ぶ技術」は幅広く展開できるのではないでしょうか。
まとめ
今回は「東進の映像授業」の歴史や現在の取り組みについて伺ってきました。今まで映像授業というと、1人で黙々と受講するイメージがありましたが、生徒同士の交流があったり、励ましてくれる担任がいるなど、モチベーション向上の仕組みが支持される理由ではないかと思いました。
また、2020年の大学改革にむけて、予備校の動きも変化していっています。
これから受験制度が変わる中、予備校の在り方が変化していくかもしれないですね。
それでは最後までお読みいただきありがとうございました。
投稿者 大塚芙美恵