部活動で共に育つ!チーム習志野がマーチングで史上初の快挙を成し遂げた理由<後編>
全日本マーチングコンテストで小・中・高4校が全国大会で金賞受賞という、史上初の快挙を成し遂げた「チーム習志野」。前編に続き、各校の顧問の先生方がその秘訣を語ります。
前編はこちら
生徒と教員、「共に育つ」のが「きょういく」
石津谷先生(以下、石津谷) 私が感銘を受けた言葉で、「きょういく」は「教えて育つ」ではなく、「共に育つ」と書くとおっしゃった方がいます。これは教育の現場において、子どもと教師の関係を表す言葉だと。コンクールに出場することで、生徒が育ってほしいのは当然ですが、教師も育たなくてはなりません。そういう意味では、次の大会に進めなかったからと言って生徒のせいにするのは、共育ならぬ「狂育」ですよ。
──習高吹奏楽部の基本方針は「共育」ですか?
石津谷 「笑いと発想のある部活」ですね。私も怒るときは怒りますが、部活や合奏では、常に楽しい空気がなければ子どもは伸びないし、音楽もよくなりません。叱り飛ばした後に本番を迎えて、良い演奏ができるでしょうか?
音楽は心の表現なので、やはり雰囲気作りは大切なんです。だから怒るなとは言わないけれど、それを引きずってはいけないんです。生徒たちも、怒られる理由はわかっても、それが四六時中となれば、気分が悪くなりますよね。
──確かに怒られ続けたら、演奏まで暗くなってしまいそうですね。「発想」にはどんな意味がありますか?
石津谷 名門校になればなるほど、「先輩たちがやってきたことを真似れば自分たちも全国に行ける、金賞を取れる」と思い込みがちなのですが、それは大きな勘違いなんです。確かに、先輩は素晴らしかったかもしれない。でも、自分たちにあった練習や発言、部の組織づくりをしなければ、自分たちの演奏はできないでしょう? それに、顧問に言われたことを受け身でやっているだけでは、生徒同士の人間関係も向上しません。
私は、合奏中でも手を挙げて、思ったことをみんなの前で発言することも、発想だと思っています。後平先生がおっしゃった通り、顧問の我々は、放課後にも会議や事務仕事が必ずあるので、生徒たちが主体的に考えて行動しなければ、部活が成り立たなくなります。彼らが常に発想を心がけて主体的に動けるようになれば、顧問も楽になって、日々の練習に出づっぱりになったり、コンクールでずっと前に出続けてあれこれ言う必要もなくなるでしょう。そんな理由から、よい部活を作る根底には「笑いと発想」があると思っています。
後平先生(以下、後平) 私は生徒たちに、「どうやったら明日の自分はもっと良くなりますか」と問いかけることを常に心がけています。今日も、楽譜を準備してこなかった生徒がいたので、練習を止めて少し話をしました。準備したつもりができていないことは、私を含め誰にでもよくあることですが、そんな時に考えてほしいのが、「あと一歩、確認すればよかったんじゃないか」ということ。部活の中には、そんな「よりよい明日にするにはどうしたらいいか」を考えるヒントがたくさんあると思います。
合奏やマーチング指導では、私より立派に指導される先生方は大勢いらっしゃいますが、吹奏楽部の顧問として生徒たちと携わっている以上、そういうことに気づいて卒業してもらいたい。それが自分にとっての使命だと思っています。
自分の人間性の悪い面が、生徒に生き写しになる可能性
──先日行われた二中の定期演奏会は、先生と生徒の信頼関係が伝わってくる楽しい演奏会でした。
後平 そう言って頂けると嬉しいです。でも難しいのが、部活動の指導は下手をすると、自分の人間性の悪い面が、そのまま生徒に生き写しになってしまう可能性があることです。その点は気をつけなければいけないと思っています。
──部活の指導は教科書に沿ってというわけではないですし、難しい点も多いでしょうね。でも、そんな中で、教員も生徒も、手探りで作り上げていけるという魅力もあるということですね。
後平 はい。生徒たちも、目標と目的を使い分けられるようになってきました。目標は「大会で優秀な成績を収めること」ですが、彼らの目的は別の次元にあるようです。
ある生徒から「私は全国大会で金賞を取りたくて二中の吹奏楽部に入りましたが、実際に金賞を取ってみて、そのことが自分のためになるわけじゃないと気付きました」とはっきり言われたんです。「全国大会までの過程で、仲間同士で励ましあいながら多くの先生や先輩から指導を受けたおかげで、様々な人の考え方を知ることができた。そして、ひとつのことに向かって突き詰める経験ができたおかげで、自分が今までできなかったことや、これから自分がどんな人間になりたいかが見えてきた気がする。金賞を取れたことそのものではなく、その過程で得たものがあったから、自分は金賞を取ったことが嬉しかった」と。
石津谷 すごいな。素晴らしい生徒だね~。その子にはぜひ、習高に入ってほしいな~!(一同笑)
後平 しかもその発言を聞いて、ほかの生徒たちも「そうだよね」ってうなずくんですよ。私も常々「大会で勝つことを目的とするな、生きる目標とするな」と話してきましたが、彼らなりにヒントをつかんで消化できているんだなと思い、嬉しかったですね。
部活動を通じて、目標と目的を使い分けられる生徒をもっと増やしたいですし、部活動ってそういうものじゃないかなと、改めて思いました。昨今、部活動の意義が議論されていますが、そういう生徒たちが増えることで、「部活動って捨てたもんじゃないでしょう? 」と世に訴えたいですね。
竹澤先生(以下、竹澤) うちの部活のモットーは「気が付き・気が利き・気が回り」です。音楽は、聴いてくれる人がいないと成り立たないので、聴いてくれる人に喜んでもらうために最終的に大事なのは、様々なことに気が付き、気が利き、気が回せることだと思っています。
部活動では挨拶や清掃を基本としていますが、掃除したからといって楽器は上手くならないし、挨拶できるか否かが演奏に直結するわけじゃありません。でも、大人数で複雑な演奏をしたり、仲間と美しいハーモニーを奏でられるのは、実は奇跡的なことで、軽んじたら、様々なことが崩れてしまう可能性もあると思うんです。
例えば、各教室を管理している先生が、パート練習に使うことを許してくれなかったら、練習ができなくなりますよね。だから僕は、技術面だけじゃなく、挨拶や清掃などをきっかけに、日々の周りのことに気を配って、相手の立場に立って行動することの大切さに気付いてほしい。練習で困っている友達を気にかけることで、周りも人の気持ちを考えたり、改善する習慣が身につくと思うんです。
──世間で言われている吹奏楽部のブラックぶりのひとつが、掃除や挨拶にこだわることが体育会系の規律で今の時代に合っていないという指摘がありますが、今のお話を聞いて、実際の部活動の現場ではなく、外から見た印象のように感じます。
竹澤 吹奏楽部は人数が多いので、顧問が統率力を発揮すれば管理できるかもしれません。でもそれだけでは、組織をまとめることはできないんです。以前は部活を辞めてしまう生徒も多く、全国大会目前に退部されたときは、「大会に出られるのにどうしてだろう?」と真剣に考えました。そして、生徒の気持ちを置きざりにして、自分におごっている部分があったことに気付いたんです。
それから多くの先生方との出会いや、指導方針や考え方の変化を経て、今年の僕の自慢は、全国大会に出たことよりも、部員が85人中1人も辞めなかったということなんです。実は、年間を通して退部者が1人も出ずに部活を終えられたことは、僕の教員人生10年間で初めてのことでした。生徒間でも、何かあれば同級生や先輩に相談するシステムができてきたので、これからもこのモットーを大事にしていこうと思います。
今井 私も、音楽は聴いてくれる人がいてこそできるものだから、中身のない音楽はさせたくないという思いがあります。これだけ中学、高校との連携など恵まれた環境が整っていても、教わった通りにやるだけでは上達せず、からっぽの音楽になってしまいます。教わったことをどう活かしていくかで、自分たちの音楽に変わると思うんです。こういう演奏がしたい、こういう音楽を届けたい、そんな意思を持ってほしいと思っています。石津谷先生たちが小学校に指導にいらしたときにも、「お前たちはどんな音楽をしたいんだ。それが全然分からない」と子どもたちに話してくださいました。
小学生には、あまり難しいことを言っても伝わらないこともありますが、自己満足でなんとなく演奏するのではなく、聴いている人のことを考え、大久保小の自分たちにしかできないマーチングや音楽をつくりあげてほしいという思いで、「自分たちで自分たちの音楽を奏でて、人に感動を与えられるようにしようね」と指導しました。
コンクールは目標のひとつで、目的ではない
──地域行事でも吹奏楽部が演奏参加している印象があります。市民の方が子どもたちの演奏を聴ける機会があるというのもいいですよね。
石津谷 地域のおまつりなどの行事に加え、幼稚園や障がい者施設・病院・老人ホームなどへの訪問演奏も定期的に行なっています。この活動が定着してきてから、生徒たちの教育・福祉方面への進路希望者が年々増え続けています。これらの活動で育んだ優しさが演奏にも表われて、人の心をくすぐる音楽につながることを願っています。
今井先生(以下、今井) コンクールでは、拍手は聞こえても聴衆の表情までは舞台から遠いので見えないんです。でも、地域のイベントなどでは、拍手してくださる方々の笑顔や、感動して泣いてくださる表情まで見られるので、誰かのために音楽を演奏することの素晴らしさも実感できるんですよね。
石津谷 見てくれる、聴いてくださる人がいて、その方たちを勇気づけたり励ましたりするのも音楽の仕事。だからコンクールに出場して賞を狙うことは、目標のひとつかもしれないけど、部活動の目的ではないんですよ。「部活動を頑張ること=勝利至上主義=ブラック」と思われることが、非常につらく残念だな~と思います。
──それにしても、レベルの高い演奏を維持していくのは大変なことですよね。金賞を取ると、次の年のプレッシャーやモチベーションを保つ難しさに加え、毎年変わっていくメンバーのその代によって、指導の工夫も必要でしょうし。
石津谷 確かに、それぞれの学校が個々に活動していれば、途切れることもあるでしょう。でも、我々には連携のきずなという強みがありますので、音楽好きの子どもたちが、中学でも、高校でも吹奏楽を続けられる仕組みが機能しているうちは、一定のレベルを保っていくことができると信じています。
──そう考えると、いかに積み上げて繰り返していくかが大事ですね。
石津谷 だから、次世代の指導者育成も重要です。教え子たちが教師になって現場に戻ってきてくれることは、何物にも代えられない喜びとなっています。
熱意を過熱と捉えず、応援してほしい
──最後に、先生方が考える部活動の意義を教えてください
後平 子どもたちには、自分の力で、自分の生き方を身に着けてもらいたいと思っています。自分の言いたいことを言えずに我慢したり、やりたいことを見つけられずに、ただのんびり時間が過ぎてしまうのではなく、たとえ人の波の中で生きていても、その中で自分らしさを発揮してほしい。僕は、吹奏楽の顧問として、それを部活の中で指導してあげられるんじゃないかと思っています。
そういった意味では、いろんな事情があって部活の指導ができない先生も、そのままの姿を子どもたちに見せてもいいんじゃないでしょうか。リアルな姿を見せることで、子どもたちが将来どんな大人になりたいか、その答えやヒントが得られるかもしれませんし、僕は、部活動という制度を学校からなくしてほしくない。子どもと一番長く接しているのは親御さんだと思います。その次に接しているであろう教員が、必死で生きている姿をこどもに見せることは、他に代えがたい経験ではないでしょうか。
今井 卒業する子たちには、「何か一つでも頑張れることを見つけなさい」と伝えています。部活や勉強、なんでもいいですが、一つのことを頑張れば人として成長できるし、逆にできないことから逃げていたら、何もできない大人になってしまいます。中でも部活は、苦しいことや辛いこともたくさんありますが、一生懸命やるからこそ、本当の楽しさを感じられ、技術だけでなく心も成長できる場所です。
部活を頑張るという、子供たちにとっての生きがい、そして必要な場所を、大人たちは守ってあげてほしいと思います。頑張れる場所をなくしてしまったら、無限にある子どもたちの可能性を潰してしまうかもしれません。
石津谷 ここ数年、部活動を熱心に指導している先生が「悪」のようなイメージが定着してきているようです。部活動の顧問をやりたくないのにやらされている先生方の不満を解消するために、いっそのこと、平等で公平にするために、部活動制度を全部無くしましょうと。そうすれば教員の負担も軽くなって、労働環境が良くなるみたいなね。
でも、それはどうなんでしょう。確かに、時間外労働だと言われれば、それまでです。でも学校現場は、それで楽になるような単純な場所ではありません。多くの見方、考え方を持った生徒たちに目を向けないといけない。私たちには、子どもたちを育てるという、崇高な目的があるんですよ。
勉強ができたり、生きる力のある子は、部活動がなくなっても、自力で勉強を頑張れるのかもしれません。でも、長く教員をやってきたのでわかりますが、本当に勉強が苦手で分からない、という生徒たちもたくさんいるんです。その子たちを誤った方向に向かわせず、生きる力を身につけさせることができたのは、部活動で鍛えた精神力などの成果も非常に大きかったと思うのです。私たち顧問は、部活指導を熱心にやることで、真に生徒たちと向き合い、育ててきたと自負しています。
私は定年間際で、もう先の無い身ですが、先生方の中には、部活の顧問をやりたくて教師になった方、また、これから教師になろうとしている熱意ある若者たちも、大勢いるわけです。そういう熱い志を持った方たちのことも、認めて応援してあげてほしいですね。
──全教員が部活動の顧問を強制的に割り振られる学校が多いために、そういう問題が出るケースもあるようですね。
石津谷 確かに、やりたくない顧問を押し付けられるのも問題があるだろうし、生徒全員が強制加入という制度も、考えものです。例えば、週1回の部活、毎日ある部活などに分けて、教員も生徒も選べるようにするなど、今ある制度で議論するのではなく、問題を解決するための新たな制度を設けることも考えてほしいですね。そして、頑張っている生徒たちや先生方のために、応援をしてあげてほしいんです。
我々教員は、いわば子どもたちの夢先案内人です。子どもたちがやりたいことを手助けして、応援して、彼らがめざす方向へ少しでも導いてあげたい。そんな熱意を持って指導している先生方は大勢います。その熱意を、過熱とは捉えないでほしいですね。もちろん、中には過熱している教員もいるかもしれませんが、過熱と一生懸命やることは同類ではありませんから。
最後に、今回の取材場所となった習志野高校吹奏楽部の皆さんにもお会いできたので、部長さん、副部長さんにも質問してみました。
本気で取り組む仲間だから、信頼関係が深まる
習志野高校吹奏楽部 部長 齋藤 俊太さん
Q )習志野高校吹奏楽部に入部した理由を教えてください
先輩方の演奏会を見て、楽しそうに演奏、合唱している姿に憧れて、あのステージに乗りたいと思いました。
Q )部活動を通して学んでいると思うことは何ですか?
仲間の大切さです。人数が多いので、学年やパートの団結力が必要になってきます。また、自分一人ではできないことも、仲間が協力してまとまることで本番に成功できたりと、ときにはぶつかることもありますが、本気で部活に取り組んでいる仲間だからこその信頼関係が深まるということを学びました。
経験を活かし、伝えたいことを伝えられるように
習志野高校吹奏楽部 副部長 渡邊 葵衣さん
Q )小学校の頃から吹奏楽部に所属しているそうですね。管楽器講座の感想を教えてください。
受講して学んだことは、掃除の大切さと楽器演奏の技術面です。楽器を演奏するにあたって、掃除をすることの意味と、その大切さを理解できました。教える側に立ってみると、小学生に説明するのは難しいことだとわかりました。この経験を生かして、自分の伝えたいことが伝えられるよう、言葉の使い方を考えていきたいです。
Q )小学校からずっと副部長を務めていらっしゃるそうですね。続けてこられた理由を教えてください。
一番の理由は、吹奏楽部の活動が楽しいからです。部活動は大変ですが、仲間との時間や達成感を得ることができます。つらさも楽しさも、どちらも経験することで、部活の奥深さを知り、続けてこられたのだと思います。
終わりに
子どもたちが思う存分部活動に打ち込めるのは、部活を指導してくださる先生がいてこそ。そして、学校の先生だけでなく保護者や地域など、子どもにかかわるすべての大人と社会が学びの場を育てていくことで、子どもたちは水を得た魚のように、ぐんぐんと成長していくのですね。
しかもおそらく、彼らが成長して得たものは、いつか私たち大人や社会に巡り巡って返ってくる。その理想の形を、チーム習志野の先生方が育んできた部活動の取り組みから、知ることができました。
今回登場していただいた学校に通う子どもたちは、とても貴重で恵まれた環境にいることは確かだと思います。一人でも多くの子どもにとっての居場所を、私たち大人がこれからも育み、守っていかなければと、強く感じた取材でした。
撮影協力:根本麻由美
投稿者:michelle